Children Panic

「ねえ蛮ちゃん…蛮ちゃんてば、おきてよ〜」
 隣の助手席から銀次の声がする。が、何か変だ。
(あいつ…こんなに声高かったっけ?)
 それにさっきから顔をぺたぺたとさわってくる小さな手はいったい?
「ねぇ蛮ちゃん……くすん」
 蛮の名を呼ぶ銀次の声がだんだん涙声になってきた。おまけに鼻まですすりだした。これはマジで何かあったらしいと蛮は、襲いかかってくる睡魔にとりあえず打ち勝ちなんとか重たい目蓋を押し開いた。
「あ! やっと起きてくれた」
 蛮の目の前で鼻をすすりつつ、にっこり微笑んだのは金髪の子供だった。
 ぶかぶかのTシャツにサイズの大きい緑のハーフパンツをはいた子供。
 その短い金髪と金色の瞳。ふんわりとした雰囲気で瞬時に誰だかわかった。
「ぎ、銀次か!?」
 眠気なんて一気に吹き飛んだ。スバルの天井に頭をぶつけそうな勢いで飛び起きる。
「何でこんな姿に……」
「わかんないよ、だって朝起きたらこうなってたんだもん」
 いや…なってたんだもん、とか言われても……
 蛮はくらくらする頭を人差し指で押さえつつ、とりあえずくわしい話を聞いた。
「ほら、よく思い出せ。昨日一人で無限城に行ったときに何かされたとか、ヘンなモン食ったとか…」
 銀次は、んーっとかわいく首をかしげてしばらく考え込んでいたが、
「やっぱわかんないや」
 と、へへっと笑って頭をかいた。
「原因がわかんねーともとに戻せねーだろーが」
「まぁ、なんとかなるんじゃない?」
 のんきに言って、ぱふっ、といつもどおり蛮に飛びつこうとするが、どうやらかってが違うらしくうまく抱きつけない。しがみついているといった感じだ。 しょぼんとしながら、
「蛮ちゃん…うまく抱きつけない〜」
 どうやら銀次にとって子供化したことより、うまく抱きつけないことのほうが問題らしい。その銀次のセリフに蛮はがっくりとうなだれた。

◆◆◆


 その頃……
 MAKUBEXの所も大変なことになっていた。
「MAKUBEX大変です!」
 急に部屋へと駆け込んできた朔羅の慌てた様子に、MAKUBEXはキーボードを打っていた手を休めてそっちを振り返った。
「どうしたの朔羅?」
「こ…これを見てください」
 朔羅に半ば腕を引きずられるようにして連れてこられた一人の少年。
 MAKUBEXと目が合うと居心地悪そうに視線をそらせた。その横顔はどことなく誰かに似ている……
「? 誰だいその子?」
「オレだMAKUBEX。十兵衛だ」
「え〜十兵衛なの?! なんでそんな姿に?」
 と十兵衛に詰め寄るMAKUBEX。
 すると、部屋の入り口から新たな人物が入ってきた。肩にかかるぐらいの長さの黒髪のほっそりとした可憐な少女……
「ここに十兵衛はいるかい?」
「ここだ花月」
「え? この子花月クンなの?」
 少女のように見えたその人物は絃の花月であった。
「いったい何がどうなってるの?」
「入るぞMAKUBEX」
 またもや違う人物が部屋へと入ってきた。
「士度クン?」
 その声の主はどう贔屓目に見ても2〜3歳は若返っている冬木士度であった。
 その士度の手には無造作に布で包まれた一人の赤ちゃんが抱きかかえられている。
「その赤ちゃんは?」
 MAKUBEXの問いに士度は赤ちゃんを朔羅に手渡しつつ、
「ああ。コイツは雨流だ」
 などと、さらりと怖いことを言う。
「う、嘘! なんで?」
「わからん。朝起きたらそうなってた。たぶん他のヤツらも同じだろう」
 次から次へと繰り広げられる目の前の不可思議な出来事。自分が二日ほど部屋にこもっていた間にいったいみんなに何があったというのだろうか。
 雨流が泣き出したので、慌てておしめを取りに行く朔羅の後姿を見送りつつMAKUBEXはくらくらしてくる頭を人差し指で押さえた。

◆◆◆


「で、なんなんですかこれは!!」
「うるせー! こっちがききたいわ!」
 怒鳴りながら二人がそろってビシッ! と指差した先には床に座っている朔羅。腕の中には赤ちゃんの雨流が、そして膝の上では銀次が朔羅の膝枕ですやすやとお昼寝中だった。
「なんで銀次さんまで子供化……」
 頭を抱えておろおろと取り乱すMAKUBEXに蛮がつっかかる。
「しるか! テメェが何かしたんだろーが」
「ボクじゃありませんよ!」
「ん〜むにゃむにゃ……くー…」
「なに膝枕なんぞされてのんきに寝てんだよテメーは!」
 蛮の怒りの矛先がこんどは銀次にむいた。はっきり言って八つ当たりである。
「そんなに怒鳴ったら銀次さんが起きちゃうじゃないですか!」
 自分も十分にうるさいのだがそのことは棚に上げて言い返すMAKUBEX。
「なんだと…」
 喧嘩腰で言い合いを続けるMAKUBEXと蛮の間に、見るに見かねた朔羅が仲裁に入った。
「まぁまぁ二人とも落ち着いて下さい」
「とろこで、なんだその赤ん坊?」
「ああ、この子は雨流…」
説明しようとした朔羅の言葉をさえぎってMAKUBEXが、
「そんなコトどーでもいいでしょ! それより今は銀次さんを元に戻すことだけを考えないと!」
「オメー……さらっとひでーコトいうな…」
 銀次至上主義的な発言に思わず蛮のつっこみがはいる。
「元に戻す方法ならあるで」
 突然聞こえたそのセリフに部屋の中にいた全員が一斉に声がした方を振り返った。
「笑師!」
 戸口に立っていたのは笑師春樹。
 そしてなぜか笑師の背中では5〜6歳ぐらいのショートカットのボーイッシュな少女(だろう)がすやすやと安らかな寝息を立てていた。
「笑師…誰だいその子?」
 また誰か子供化しているのか、といい加減うんざりとした顔でMAKUBEXが問う。
「薬屋のレンちゃんや。みんな朝からえらいことになっとったからな。それでワイ、どうにかでけへんかと思って薬屋に行こうとしてたら途中でおうたんや。大体の話はレンちゃんから聞いたわ、それで…」
「この騒ぎを鎮めようと思っての」
「ゲンじい!」
「じいさん!」
 笑師の後ろからのっそりと現れた人物は薬屋のゲンであった。
「で、その元に戻す方法ってーのはなんだ?」
 今にも掴み掛かりそうな勢いの蛮を手で軽く制してゲンはしずかに話し始めた。
「事の発端はこのレンがワシ特製の漢方薬茶を持っていったことにあるのじゃ」
 部屋の奥のほうにいた花月や士度たちも戻れる可能性があると聞きつけ、ゲンの側によってくる。
「漢方薬茶? そのお茶を飲んだことが子供化の原因なんですか?」
「いや、漢方薬茶は問題ではない。問題はレンのやつがワシの秘蔵薬と間違えて持っていきおったことにあるのじゃ。その間違えて持っていった秘蔵薬を皆が飲んだことでこの様なことがおこったのじゃ」
「その秘蔵薬って何の薬なんです?」
 聞き返す花月に、ゲンはこぶしをグッと握り締め、思いっきり力説した。
「そう! この秘蔵薬こそワシが長年かけて開発した若返りの薬なのじゃ!!」
「なんじゃそりゃー!」
 思いっきりつっこむ蛮。
「んなモン作ってどーすんだよ!」
「何を言う! 若返りは世の人々の永遠の憧れじゃぞ!」
 二人の後ろで銀次と雨流以外の全員がガクッとずっこけていた。
「な…そんな物ののせいでオレたちは…」
「そんなモノとは聞き捨てならんの。ワシがこれにどれだけの歳月をつぎ込んだと思っとるんだ」
 十兵衛の嘆きを耳ざとく聞き取り反論してくるゲンを宥めたのは花月だった。
「それじゃあ、若返りの程度に差が出たのは、飲んだお茶の量によってですか?」
「勿論それだけではないがな。薬が効きやすい等の個人の体質も十分関係しとる。ホレそこの赤ん坊まで若返ってしまったやつなど余程薬が効きやすかったと見える」
 と雨流を指すゲン。そのゲンの言葉を遮るように士度が口を挟んできた。
「そんなことより、元に戻る方法ってのを教えてくれよ!」
「おお。そうじゃ忘れとった」
「忘れんなよ!」
 再度の蛮のつっこみをしっかり無視して、ゲンはエプロンのポケットから紙袋を取り出した。
「これじゃ」
「これは?」
「これは毒素を洗い流すお茶じゃ。これを適量飲めば若返りの薬の効果も薄まって元に戻るはずじゃ」

◆◆◆


「銀次さん元に戻ってよかったー」
「心配かけたねMAKUBEX」
 心底嬉しそうなMAKUBEX。やっと年齢どおりの元の姿に戻った銀次にほっとした笑顔をむける。銀次もそれにつられるように満面の笑みで応えた。
「ケッ」
 その二人の様子を横目で見ていた蛮はおもしろくなさそうに銜え煙草に火を点けた。そしてまだMAKUBEXたちと話し込んでいる銀次に声をかける。
「そろそろ帰るぜ銀次! ぼさっとしてっとおいてくぞ」
「あ、まってよ蛮ちゃん!」
 その声に慌ててMAKUBEXたちに別れを告げると、銀次はもう数メートル程先にいってしまった蛮の背中を追いかけるために駆け出した。
「蛮ちゃんv」
 ぱふっ。
 後ろから勢いよく蛮の背中に飛びつきその首にしっかりと腕を回す。
「えへへへっv」
「なんだよその笑いは」
「だって、やっといつもどおりに蛮ちゃんに抱きつけたなーと思ってさ」
 小さいとなんかかってが違うんだもん。と、にこにこしながら銀次。
「やっぱ蛮ちゃんに抱きつくのがいちばんすき〜v」
「ばぁーか」
 なにいってやがる。と指で銀次の額を軽く弾く。
 その蛮の顔には、まんざらでもなさそうな笑みが浮かんでいた。


end