春の潜入捜査週間
○プロローグ○

「蛮ちゃん…仕事来ないね」
「…ああ」
「蛮ちゃん……ヒマだね」
「……ああ」
 いつものように、HONKYTONKのカウンターを占領して暇そうにしているのは『奪還屋』の二人。美堂蛮とその相棒の天野銀次。
「おまえらな…そんなにヒマならビラでも配って来い。店のツケだってタマッてるんだしな」
 ほれほれ、と蛮と銀次を追い出しにかかっているのは、この店のマスター、王波児である。
 そう、この二人が波児から借りた借金はすでにちょっと、とは言い切れない程の額になっているのだ。波児としてもさっさとツケを払って欲しいところだが、如何せんこの二人。金運にはあまり恵まれていないようで、仕事のウデはいいのだがなぜか儲からないのだ。
「そんなこというなら波児が仕事持ってきてくれよ〜」
「ムチャ言うなよ。オレは仲介屋じゃねーぞ」
 そんなやり取りをしていると不意に店のドアが開いた。
 カラン、カラン
「おっはー」
 長い金髪をかき上げながら入ってきた女性は仲介屋のヘヴン。彼女は蛮たちの横にくると開口一番こう言った。
「ちょうどよかったわ二人とも。仕事よ」


「写真?」
「そう、写真。依頼人の母校に行ってある写真を奪還してきて欲しいのよ」
 ヘヴンの話によれば、その依頼人は在校中に校内で逢引しているところをある教師に隠し撮りされ、それをネタに在校中に色々と使い走りのようなことをさせられたそうだ。
 依頼人自身は、この春にその高校を卒業しているのだが問題の写真はその教師が持ったままらしい。
「別にそんなに困らないような気がするけど?」
 のほほんと疑問を口にする銀次に対して、ヘヴンは眉間にしわを寄せて声を潜めた。
「その依頼人の母校って言うのが、全寮制の男子校なのよ」
「つまりなにか、自分の過去の汚点を隠すために写真の奪還を依頼か?」
「うっ……ま、まぁ。そうハッキリ言われても困るけど」
 はははっと乾いた笑いを浮かべて頬をぽりぽりとかくヘヴン。その態度がだいたいの真実を物語っていた。
「なんじゃそりゃ〜?! しかもまたクソめんどくさい…」
 あきれた、とばかりに肩をすくめる蛮。それに続いて銀次も、
「そうだよね、めんどくさいよね。その話だとドコに写真があるかわからないから何回も学校に忍び込まなきゃダメじゃんか」
 そんな二人の非難もどこ吹く風、とばかりにヘヴンは波児に淹れてもらったコーヒーを飲みながらしれっとこともなげに言った。
「あら、そんなことないわよ」
「何かいい方法でもあんのかよ?」 
「うふふっ。もちろんv」
 蛮の問に、ヘヴンはさも楽しそうに笑うと、その『いい方法』とやらを二人に説明しはじめた。
「だからね、蛮くんと銀ちゃんがその学校に生徒として転入しちゃえばいいのよ!」
「「はい?」」
 その突拍子もない『いい方法』とやらに、蛮と銀次は同時に間の抜けた声を上げた。


→ It continues.