ぼーっ。
にへらっ。
ほけーっと、道路脇に止めたスバルの窓から見える桜を眺めては、銀次は一人にこにこと笑っていた。
季節は春。
気の早い木にはもう桜の花がちらほら咲いていた。その桜を、銀次は飽きることなくずっと見ていた。
こつん。
音のした方を振り返ればスバルのドアに腕をかけた蛮と目が合う。
「あ、おかえり蛮ちゃん」
「なに一人でにやにやしてんだよ」
「あ、いや。べつに。なんか平和だなーと思って」
へへっ、とまた笑う。そんな銀次の様子に、蛮は呆れたようにため息をつきながらスバルの運転席へと乗り込んだ。
「何が平和だ。こっちとら、明日のメシすらやべ−ってのによ」
「ダメだったの?」
心配げな表情で蛮の方に顔を向けると、ため息とともに告げられた最悪の返事。
「…ほかのヤツに先越された」
「やっぱり、ちゃんと並んどいたほうがいいっていったのに」
う゛ーっ、と恨みがましく上目遣いで睨んでくる銀次に対する蛮の態度はそっけなかった。
「うるせー。めんどくせーんだよ、並ぶの」
「あーあ。200個限定大特価の缶詰が〜」
「だったらオメーがもう一回行けばよかったじゃねーか」
「だって一人二個までってレジのおね−さんに言われたんだもん」
そのスバルの後部座席には、スーパーのビニール袋に入った二個の缶詰がぽつんと置かれていた。
「んなの、黙ってればわかりゃしねーっての……」
ぶちぶちと文句をたれつつ、蛮は車を発進させる。
「ねぇ、蛮ちゃん。どこいくの?」
「ああ? 今日はもう仕事はヤメだ。……そうだな、銀次の好きなトコにでも連れてってやるよ」
「? 何で?」
「何でって、もうすぐオメーの誕生日だろう?」
「蛮ちゃん……まだ一ヶ月近く先の話だよ…それ」
「なんだよ、イヤなのか?」
いまいちリアクションの少ない銀次の様子に、運転中の蛮がイライラと不機嫌そうに聞き返す。
「そ、そんなことないよ!!」
すると、途端に思いっ切り否定の返事が返ってきた。
そして身体ごとぐるんと蛮のほうを振り向くと、銀次は嬉しそうにぱあっと顔を輝かせた。
「それにしても、蛮ちゃん俺の誕生日覚えててくれたんだ!」
そんな銀次の心底嬉しそうな様子にちょっと口元を緩めると、蛮は照れているのか早口で言葉を続けた。
「プレゼントは金がかかるからナシだ。その代わり今日は一日、オメ−の好きなことに付き合ってやるよ」
「ホント? じゃあオレお花見がしたい!」
「花見って……桜はまだ早いだろ」
「ううん。満開じゃなくてもいいの。蛮ちゃんと一緒に桜が見たいんだ!」
握りこぶしでちからいっぱい力説する銀次。その姿には『どうしても蛮と一緒に花見がしたい』という意志が表れていた。
「わかったよ」
銀次のそんな『お願い』に蛮は苦笑すると、この辺りで桜が一番早く咲く場所へと車を向けたのだった。
end