銀次Ver.
夜の闇が辺り一面をおおっていた。
道路脇に止められたスバルの車内から見える景色も暗闇の中に沈み、大通りから外れて街灯の灯りもあまり届かないこの辺りでは人気もほとんどなかった。
今夜は雲ひとつなく、新月のために月明かりもないので星がよく見えた。
その星明かりを浴びながらスバルの車内で眠っていた二人。
しかしその眠りは不意に覚まされた。
珍しく夜中に目が覚めた。
半分の寝ぼけた銀次の頭に飛び込んできたのは蛮の切迫した声だった。
「…う……いくな………」
「?」
何事かと思った。
銀次は、寝ぼけている意識を無理矢理覚醒させてなんとか起き上がると、運転席の蛮の方を慌てて確認した。
「…う……」
隣で眠っている蛮は、眉根をぎゅっと寄せて切れ切れに呻いていた。
辛そうな顔で、時折手を彷徨わせて。
見ている銀次まで辛くなってしまうような、そんな表情だった。
「…蛮ちゃん…」
嫌な夢でも見ているのだろうか。しかし夢が相手では自分にはどうする事も出来ない。起こそうかどうか思案していると、蛮の口唇からさっきよりもさらに切迫した声が漏れた。
「…待って……いくな………」
言葉とともに差し出された手を、銀次は躊躇うことなく掴んだ。両手でしっかりと握り返してやる。
「う……ん………」
すぅすぅ
途端に蛮がうなされなくなった、穏やかな寝息が聞こえ始める。
その蛮の様子に、銀次は心底ほっとした。
「何がどうなったのか分かんないけど、よかった…」
さっきとは打って変わって穏やかな寝顔の蛮に、銀次の顔にも自然と笑みが浮かんだ。
「オレがずっと手、握っててあげるからね。だから蛮ちゃん、安心して寝てね」
そう呟いて、銀次はすやすやと寝始めた蛮の瞼にそっと優しくキスを落とした。
end