〜赤屍? 編〜
一方その頃、銀次はというと、街の中をあてもなく歩き回っていた。
店を飛び出した蛮を追いかけて自分も店を出てきたまではよかったが、すぐに蛮の姿を見失い――小さいので人ごみにまぎれるともう見えないのだ――現在に至る。
とりあえず蛮の行きそうなところは大体行った。あと行っていない場所といえば、パチンコ屋や競馬場など子供の姿では入れてくれそうにない場所だけ。
「はぁ〜、蛮ちゃんどこにいるのかなぁ……」
がっくりと肩を落としながら、とぼとぼと道を歩く。
あんな姿で敵にでも会おうものなら、勝負の結果は戦わなくても分かる。それに、銀次の心配はなにも商売敵だけではなかった。
(ううっ、こんなことしてる間にヘンなおじさんとかに声かけられたり、誘拐されたりしてないかな……小さい蛮ちゃんってばあんなに可愛いんだし、早く見つけないと!)
銀次は蛮の心配をするあまり自分のことを心配していなかった。つまりまわりへの注意が散漫だったわけで…………
「おや、こんなところで会うなんて奇遇ですね……銀次君」
びきっ。
思わずその場で固まる。
出来ればあんまり聞きたくない声を聞いてしまった……
(う、後ろにいる……)
出来ることなら振り向きたくない、しかしこのまま無視することも出来ない。(後が怖すぎて)ダラダラと冷や汗を流しつつ銀次は悩んだ。
(ど、どうしよう……誰か助けてー)
だがしかし、彼の心の叫びを聞き入れてくれる者は誰もいなかった。
「そう怖がらなくてもいいんですよ。今日は仕事ではないんですから」
(仕事でなくても十分危険なんですけど……)
そう思ったが口に出して言える程、命知らずなわけでもなく銀次は仕方なくそっと後ろをうかがってみた。
くすっ。
怖い笑顔を見てしまった……
後ろには銀次の予想通り、黒いコートをはためかせながら悠然とたたずむ赤屍蔵人の姿があった。
「銀次君はお仕事ですか?」
「いえ……」
「そうですか、では私と一緒に散歩でもしませんか?」
嫌だといえない雰囲気を十分にただよわせ、くすりと笑いながらそうたずねてくる赤屍に対して銀次ができた事は――泣きながらうなずくことだけだった。
「いい天気ですね」
「そ、そうですね……」
(ほんとに、誰でもいいから助けてー)
心の中でだくだくと涙を流しながら、ぜんまい仕掛けの人形のようにギクシャクと歩く銀次。
街中をこの奇妙な取り合わせで歩いていると、大概の通行人はおびえて道をあけるか、興味津々といった感じで見てくるかのどちらかだった。
「赤屍さん。なんかオレたちジロジロ見られてるんですけど……」
「大丈夫です。私は気にしませんから」
「オレが気にしますぅ〜」
しくしく。
言うだけ無駄だった。
銀次が、いい加減、この散歩という名の連行からどうにか脱出しようと、心の中で計画を練っていたそのとき、車道を挟んだ向かい側の路地から小さな影が勢いよく飛び出してきた。
(え? あれ、もしかして蛮ちゃん?)
白いシャツにベージュのハーフパンツ。さらさらの黒髪に、見覚えのある顔立ちのその子供は、間違いなく蛮だった。
銀次が赤屍と歩いているのを見て、相棒を助けるべく慌てて駆け出してきたのだろう。
(蛮ちゃん。今、自分が子供だってこと分かってるの?)
子供の姿のままで赤屍と戦うなんてとんでもない! なんとか蛮を止めようと銀次は慌てて行動を起こした。
赤屍に気づかれないように注意しつつ、銀次は自分の隣に立っている赤屍を指差して見せる。
「?」
蛮がその銀次の行動を不審に思って立ち止まったのを確認してから、今度は蛮を指差してから、赤屍のいる方とは反対側を指差して見せた。
「?」
蛮は首をひねりながら、とりあえず自分の周りを見回してみた。すると、ちょうど蛮の右手。家具屋のショーウインドーが目に入る。そのガラスに自分の姿が映りこんでいた。
やっと銀次が言おうとしていることが蛮に伝わったらしい――だが蛮は銀次に頷き返すとまたこっちに向かってこようとする。
(蛮ちゃん〜〜きちゃ駄目だって)
銀次の心配をよそに蛮は二人の前までやってくると――ばっと銀次に飛びついてきた。
「会いたかった!」
「わわっ!?」
慌ててその小さな身体を抱きとめる。
ぎよっとしたのは隣を歩いていた赤屍も同じだったようで、思わず動きが止まっている。
「ねぇ、もう帰ろう?」
ぎゅっと銀次に抱きついた蛮は、下から見上げるようにしながら、極上の天使の笑顔をふりまいて、にっこり。
銀次はもちろん、通行人さえ見惚れるような笑顔だった。
思わずボーっと見惚れる銀次のTシャツをくいくいっと引っ張って、蛮が銀次の耳元で小さく、だが鋭い声で囁いた。
「おい、銀次。今のうちに逃げるぞ!」
その言葉にやっと我に返った銀次は、
「じゃあ赤屍さんそういうことなんで!」
それだけ言い残すと、銀次は蛮を片腕で抱き上げて、全力疾走でその場を後にした。
「今の子供……美堂くんに似ていたような……?」
後に残された赤屍は、狐につままれたような面持ちで走り去る銀次たちの背中を見送っていた。
end