イタズラを仕掛けよう
〜花月編〜

 街の一角、駅前の広場にある大きな時計の下で“絃の花月”こと、風鳥院花月は人を待っていた。
「遅いな十兵衛」
 時計を見上げてそうこぼす。
 さっきから通行人がちらちらと自分のことを見ているようだったが、もはや慣れたものでそういう視線に関してはすっかり無視する癖がついていた。
 待ち人も来ないので仕方なくあたりの景色を眺めながらぼんやりしていると、きょろきょろしながら駅前を歩いている子供の姿が目に入った。
(へぇー可愛い子だな。迷子かな?)
 さらさらの黒髪に少女とも少年ともとれる中性的な顔立ちの子供だった。何人かのスケベったらしいオヤジがその子をじっと見ているのに気がついて、
(ほっとくと危ない目に会いそうだな……交番にでも連れてった方がいいかな? 一人みたいだし)
 なんとなく心配になって、花月はその子の後を追って歩き出した。


「ねえ、キミ。迷子かい?」
 駅前の広場を横切って歩いていた黒髪の子供は、唐突に背後からかけられた声に驚いてぎょっとして後ろを振り返った。
 その子供――蛮は、にこっと優しげに笑いかけてくる花月の姿を認めて、
(げっ、糸巻きじゃねーか!? ……ひょっとして気づかれたか?)
 内心の動揺を何とか抑えつつ、とりあえず黙ってふるふると首を横に振ってみせた。
「えっと、じゃあ誰かを探してるの? 僕が一緒に探してあげようか?」
 そう言いながら、しゃがみこんで蛮と視線の高さを合わせて尋ねてくる。
(ん? オレだと気づいてない?)
 花月が自分の正体に気がついていないとわかると、とたんにイタズラ心が芽生えてきた。
(くくっ、いーこと思いついた)
 心の中でニヤリと笑うと、蛮はこくんと首を縦に振った。


 駅前全体を見渡せるので人探しもしやすいだろうと、花月と蛮は広場にある大時計の前まで移動してきていた。
「ねえ、お兄ちゃんも誰かと待ちあわせだったんじゃないの?」
 さりげなく尋ねる――子供化に伴い声も若干変わってしまっているため、声を聞いただけでは蛮だとは気づかなかったようだ。
「うーん、そうなんだけどね。十兵……あ、僕の友達はこの辺りの地理に詳しくないからどこかで迷ってるんだよ、きっと」
(なるほど……アイツと待ち合わせか)
 花月に気づかれないようにこっそりキュピーンと目を光らせる。ついでに悪魔のシッポまで生えているようだ。
「ところでキミの探してる人ってどんな人だい?」
「あのね。パパなの」
 そう答えながら蛮は辺りをチラッと確認する。運良く(いやこの場合運悪くか?)視界の端に見覚えのある頭が見える。
「えっと、パパの特徴とかは?」
「うんとね、背が高くて髪は短くて茶色いの。それでねそれでね……」
「うーん。それだけじゃよくわからないな。えっとパパの名前は?」
 その時――ようやく待ち合わせの場所にたどり着いた十兵衛が声をかけてきた。
「その声は……花月、そこにいるのか?」
 その十兵衛の声を遮るように、蛮が大きな声で言った。
「あのね十兵衛っていうの」
 びきっ!
 顔を引きつらせて、花月が固まる。
 現状がまったく把握できていない十兵衛は、急に固まった花月を不審に思ってその肩を叩いた。
「どうした花月?」
「どうしたじゃないよ!」
 肩に乗せられた手を振り払い、逆に十兵衛の胸倉をぐいっと掴み上げて詰め寄る。
「僕としばらく離れてる間になにがあったの!?」
「? 話が見えないが?」
 急に怒り出した花月にとりあえずわけを聞こうとたずね返す十兵衛。その青年にむかって声を荒げながら、花月はびしっと蛮がいる辺りを指差した。
「こーんな大きな隠し子がいたなんて!」
「? 隠し子?」
 ――が、しかしその場所にはもう誰もいなかった。


 一方、蛮はといえば――十兵衛が近寄ってきた時点ですばやくその場から逃げ出していた。そして、物陰からこっそりと二人の痴話ゲンカの様子を見て声を殺して笑っていた。


end