夏祭り
〜蛮 編〜

 夜風に乗ってにぎやかな声が聞こえてくる。
 夏祭りの会場には所狭しと色々な店が立ち並び、すでにたくさんの人でごった返していた。
「うわ〜すっごい多い人だね」
「銀ちゃん見て見て、金魚すくいやってるよ」
「あ、ホントだ」
 嬉しそうに銀次と店を見て回る夏実は、紺地に淡い紫の桔梗の柄の入った浴衣を着ていた。方蝶結びにした赤い帯が夏実の動きにあわせてゆれる。
 いっぽう銀次と蛮、波児は男物の紺の浴衣に紺の帯といういでたちだ。
 四人は夏祭りへとやって来ていた。
 嬉しそうにはしゃぐ銀次と夏実の後から、ゆっくりとついてくる波児と蛮。
「あんなにはしゃいじゃって……来てよかったな、夏祭り」
 まるで子持ちの父親のようなセリフをしみじみと呟く波児に向かって蛮がツッこみを入れた。
「なにをジジくさいことを……」
 そんな蛮たちを置き去りにしてどんどん先へと進んでいた銀次と夏実だったが、一向に追いついてこない二人に痺れを切らせて銀次が大声で呼んだ。
「蛮ちゃんほら早く」
 こっちにむかって手を振る銀次に蛮は、
「おう、今行く。なぁ二人とも、波児がなんでも好きなもん買ってくれるってさ」
 にやにや笑いながら急にとんでもないことを言い出した。
「! お、おい蛮! 何を勝手なこと言って……」
 波児が反論するより早く銀次と夏実が口々にまくし立てる。
「ほんとですかマスター? わーいv」
「えーほんと!? じゃあオレ、綿アメでしょ、それからたこ焼き。あとりんご飴とラムネと、えーっとそれからそれから……」
 まだまだ続きそうな銀次のリクエストに波児はあわてて釘を刺す。
「一個だけだぞ。一個だけ!」
「けちけちすんなよ波児」
 にやにや笑いながら肩を叩いてくる蛮をジト目で見つめつつ、
「なんならお前たちの借金につけてもいいんだぞ」
 なんてことを言ってくるものだから今度は蛮があわてて銀次に釘を刺した。
「おう銀次、一個だけだってさ!」
 その変わり様に波児がぷっと吹き出した。
「なんだよ」
 むくれて睨んでくる蛮に波児は笑いをかみ殺しつつ肩を叩き返す。
「お前も一個だけならおごってやるぞ」
 そんなやり取りをしている二人に、まちきれなくなった夏実が振り返って二人をせかす。
「ほら、二人とも早く〜」
「ああ」
「おう、今行く」
 顔を見合わせて笑うと、二人は早足で夏実たちのもとへと歩き出した。


end