ひさしぶりに東方司令部に顔を見せたエドワードは、図書館によった帰りにロイのいる執務室に入りこんでいた。
部屋の主であるロイには目もくれず、図書館で借りてきたばかりの本をどさっとテーブルの上に置くと、ソファに腰を下ろして黙々と本を読みはじめた。
急にやってきてろくに話もしないまま本に没頭するエドワードにロイは思わず苦笑い。
「少しぐらい私と話をしてくれてもいいようなものだがね」
「………」
――無視。
予想通りのエドワードの反応にロイはやれやれと軽く肩をすくめ、また仕事に戻っていった。
紙にペンを走らせる音と、本のページをめくる音がするだけの静かな時間がしばらく続き――数十分後。
ロイはコトリ、とペンを置いて椅子から立ち上がるとうーんと伸びをした。仕事が一段落したので少し休憩でもしようかとなにげなくエドワードのほうを見ると、エドワードが借りてきた本の中に見知ったタイトルの本を見つけた。
「ん? これは…」
思わず手にとってぱらぱらとページをめくる。一度読んだ本だがついつい続きが読みたくなってロイはエドワードの隣に腰を下ろすと、休憩がてらその本を読むことにした。
しばらくして……
こつん。
「?」
急に右肩が重くなった。
ロイが首を回して右側を見てみると、エドワードが本を膝に乗せたままの姿勢でロイにもたれかかっていた。
「鋼の?」
「……」
声をかけても反応がない。
ロイが動かずにじっと様子を見ていると、
くーくー。
「寝ている…」
エドワードは膝に乗せた本を右手で持ったまま熟睡していた。
「また徹夜でもしたのか…」
ロイは呆れながらもエドワードの手の中にある本をそっと取り上げてテーブルの上へと戻した。
くーくー。
まったく起きる気配がない。
ロイは自分の持っていた読みかけの本もテーブルに戻すと、右手の甲でエドワードの頬を軽くなでた。
「ん〜」
まだ起きない。
今度は、右手の指先でエドワードの前髪を梳きはじめた。
「ん〜〜」
「まだ起きないとは、よほど疲れているのか?」
蜂蜜色の前髪を指先でもてあそびながらエドワードの寝顔を眺める。
「……鋼の」
その寝顔に引き寄せられるように、ロイは身体をひねってエドワードへと顔を近づけて……
コンコン。
突然のノックにギクリと動きを止める。すばやく身体を元の位置に戻すと、どうにか平静を装って返事をした。
「…どうぞ」
「失礼します」
執務室に入ってきたのはホークアイ中尉。彼女は書類を片手に室内を見回すとロイに向かって一言。
「なにをなさっているんですか大佐?」
ぎくっ!
心の中を見透かされたような気がした。しかしなんとか動揺を隠してホークアイのほうに顔を向けた。
「その、休憩中だったんだが鋼のが寝てしまってね」
左手で、自分の右肩にもたれたまま眠っているエドワードを指差す。
「まあ。でも、そのままではエドワード君も寝苦しいでしょうからとりあえず横に…」
ホークアイはそういいながらエドワードの両肩を支えてゆっくりと身体を右側に倒そうとした。
くいっ。
「えっ?」
「ん?」
不意にロイの軍服の上着が右側に引っ張られた。
ロイが自分の服を見下ろしてみると、エドワードの左手がしっかりとロイの軍服の裾を握り締めていた。
ホークアイがロイの上着の裾から手を外そうとしたが、あまりにもエドワードが裾を硬く握り締めているのであっさりとあきらめる。
「大佐仕方がありません。ここで仕事の続きをしていただきます」
そういってエドワードが借りてきた本をテーブルの脇によけると、ホークアイはロイの目の前にさきほど持ってきたばかりの書類の束をでん、と積み上げた。
「後で毛布をお持ちします」
「すまない」
気の利く優秀な部下に礼を言うと、ロイはしかたなく目の前に山積みにされた仕事に取りかかった。
…ぱたん。
ホークアイが静かに扉を閉めて部屋を出ていったのを確認すると、ロイはいまだに自分の肩にもたれて寝ているエドワードに顔をよせ、掠めるようにその唇にキスをした。
「ん〜……イ?…」
くーくー。
わずかに触れた唇の感触に、少し覚醒するがすぐに眠りに落ちていくエドワード。
そんなエドワードの様子にくすりと笑みを漏らすと、ロイは仕事を終わらせるべく書類にペンを走らせた。
end