第九話
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 ――それから一週間。
 エドワードは誰の目から見ても……おかしかった。


 金色の瞳に、ややくすんだ短めの金髪の、エドワードに似た面差しの彼の弟――アルフォンス・エルリックはそんな兄の突然の変化に、戸惑いを隠せないでいた。
 弟の心配をよそに、エドワードといえば――
 アルフォンスと組み手をしている最中に、ぼーっとしては殴られ……
 料理をすれば、手を切り……
 家の中を歩けば、何もないところで転ぶ……
 食事もいつもの半分しか食べないし、部屋にこもったまま、あまり外に出てこなくなった……
 エドワードが家の外に出たがらないので、師匠のイズミの所へはアルフォンス一人で行っていた。しかし、『仕事は二人で』というイズミの方針があるため、この一週間はまったく『仕事』はしていない。
 彼女も彼女なりにエドワードのことを心配しているのだ。
「もしかして兄さん…………」
 ここ一週間の兄の妙な行動に、アルフォンスは思い当たるフシがあることに気がついた。――ため息が増え、ぼーっとすることが多くなった兄。少し前の自分を見ているようで……思い当たることがありすぎだ。
「ここは一つ。兄さんに直接聞いてみるべき……だよね」
 アルフォンスはこぶしを握って自分で自分に気合を入れると、二階にある兄の部屋へと足を向けた。
 コンコン。
「兄さん起きてる?」
 ……返事がない。
 仕方がないのでアルフォンスは部屋の扉を開けてみることにした。
「兄さん?」
 鍵のかかっていない扉をそっと開けると、中では椅子に腰掛けたエドワードが開けた窓の窓枠に頬杖をついて、ぼーっと外を眺めていた。
「兄さん。入るよ?」
「…………」
 なんの返事も、なんのリアクションもないので、アルフォンスはそのまま部屋に入って扉を閉める。
「ねえ」
「ん〜?」
 エドワードのすぐ横に立ってぽん、と肩に手を置くと、やっとエドワードが――のろのろとだが――こっちを見た。
「兄さん。どこか具合でも悪いの? 悩み事なら、ボクでよければ相談にのるよ?」
「大丈夫、大丈夫。なんでもないって!」
 そんな心優しい弟の言葉に、エドワードはまったく、なんでもなくなさそうな顔で笑ってぱたぱたと手をふった。
「ねえ兄さん……スバリ、恋の悩み?」
 ぎくっ!
(やっぱり……)
 一瞬、エドワードが動揺したのをアルフォンスは見逃さなかった。すかさず後を続ける。
「あのさ……この前ボクに好きな人ができて、兄さんがそれを応援してくれるって言ってくれた時、すっごく嬉しかった。ボクも兄さんの好きになった人がどんな人でも、絶対応援するよ?」
「……アル」
 その弟の言葉に、エドワードは嬉しいような困ったような複雑な顔になった。
 アルフォンスの『好きな人』とはロイの部下で、名前をリザ・ホークアイという。軍の中では中尉という立場にあり、ダークブラウンの瞳に長い金髪をきりりと後ろで一つにまとめてアップにしたクールな印象の女性だ。
 少し前に街で会って一目惚れして以来。アルフォンスはずっとホークアイに対して淡い恋心を抱いているのだ。
 しかし、相手は大人の女性。しかも、軍の人間。それに対して自分は『怪盗』――ということもあって、今も自分の気持ちをホークアイ本人に告げられずにいる。
 そんなアルフォンスの思いを知っているだけに、エドワードは自分の現在の悩みを弟に打ち明けようかどうか迷っていた。
 さんざん迷った末、エドワードが出した結論は……


「ええっ!? あの大佐が?」
「そうなんだ……」
 エドワードから聞かされた話に、アルフォンスは驚きを隠せないでいた。動揺のあまり目が泳いでいる。
 そんな、当たり前といえば当たり前な弟のリアクションに、エドワードはがっくりと肩を落としながら情けなさそうに尋ねた。
「なあ……オレどうすればいいと思う?」
「どうって……」
 そう言われても……尋ねられたほうも困ってしまう。
「どうもこうも……兄さんのほうはどうなの?」
 しばらく考え込んでから、アルフォンスは逆にエドワードに質問した。
「えっ? オレ?」
 人差し指で自分を指しながら小首をかしげる兄に、アルフォンスはこくりと頷いて、たたみ掛けるようにして聞いた。
「大佐のことどう思ってるの? 好き? キライ?」
 ぐっと詰め寄ってくる弟の顔を見つめながら、エドワードは困惑した。
(オレの……気持ち?)
 黙りこんでしまったエドワードに対してさらに、
「好きなら好き。キライならキライって、ハッキリ兄さんの気持ちを相手に言ったほうがいいんじゃない? こんなところでうじうじ悩んでるなんて、兄さんらしくないよ」
「……そっか……そうだよな」
 そのアルフォンスの助言(?)になにか吹っ切れたのか、エドワードはすっくと椅子から立ち上がると、アルフォンスにむかってにぱっと元気よく笑って見せた。
「サンキュー、アル。オレなんかわかった気がする」
 久しぶりに、いつもの明るい笑顔を見せた兄に、アルフォンスもほっとした顔で笑い返した。


→ It continues.