第五話
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「どうぞ」
 コトン、と机の上に置かれたコーヒーに気がついて、ロイが読んでいた資料から顔を上げた。
「ありがとう」
 ホークアイに礼を言いつつ、彼女が入れてきてくれたコーヒーを一口すする。
「大佐。最近、書類をためこまなくなりましたね」
 さっき他の部下と話していた話題を思い出して、そんなことを口にした。
 大佐の様子が普段と違うので、軍内部では『嵐が来る前触れだ』だの『何かに取り付かれたらしい』だのという冗談とも本気ともつかないウワサが広まりつつあった。
 しかし、ウワサの元である本人は、不満げに眉をしかめて、
「私が仕事熱心だといけないのかね? 中尉」
「いえ、そういうわけでは……」
 コンコン。
「どうぞ」
「失礼します」
 ノックとともに室内に入ってきたハボックは、まっすぐにロイの机までくると、手に持っていた書類をロイに渡した。
「この間の報告書です」
「ああ」
 ロイはハボックから受け取った報告書をぱらぱらとめくって目を通しながら、ふと、自分が今、一番気に入っている蜂蜜色の長い髪を三つ編みにした怪盗の少年の顔を思い出した。
(しばらく顔を見ていないな……)
 唐突にハボックに尋ねる。
「そういえば、『怪盗F・A』から次の予告状はきていないのか?」
「へっ?」
 何の前触れもなくそんな話をされて、ハボックは戸惑った声を上げた。
 しばらく考え込んでから。
「いや、そういう話は聞いてないですね」
「……そうか」
 目に見えるほどの落胆ぶりで自分の仕事へともどっていくロイ。
 ハボックは困ったように人差し指でぽりぽりと頬をかき、ホークアイを振り返った。
「怪盗が来るのを心待ちにしている軍の人間ってのも、どうかと思うんですがねぇ?」
 ハボックにそう言われて、ホークアイも困ったように頬に手を当ててため息をついた。
「……そうね、それも問題ね」


end