第四話
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「だからって、いえからおいだすことはないとおもうけどな」
「はははっ」
 あれから、エドワードとアルフォンスは片付けの邪魔になるから、とイズミの家から追い出されてしまった。
 夕方までどこかで遊んで来い、といわれて仕方なく街に来たのだが、とくに行くあてもない。散歩がてら二人でぶらぶらしていると、後ろから歩いてきた女性数人に取り囲まれてしまった。
 びっくりしてエドワードが上を見上げると、女性達は黄色い声で口々に。
「わー。かわいい!」
「どこの子かな?」
「ぼうや、いくつ?」
 手を伸ばしてかわるがわるエドワードとアルフォンスの頭を撫でる。完全に小動物扱いだ。
(……おいおい)
(昔されたよね……こーゆーの)
 心の中でため息をつくエドワードとアルフォンス。
 子供の頃ならべつにいいとして、身体は幼い子供でも中身は立派な14歳なワケで……こんなふうに小動物のように扱われて嬉しいはずもない。
「さっさとにげようよ、にいさん」
「ふたてにわかれようぜ」
「じゃあ、ゆうがたのかねがなるころに、いつものこうえんで」
「わかった」
 小声で作戦会議をすませ、お互い顔を見合わせてひとつ頷く。
 エドワードとアルフォンスは女性達の気をそらせるように話しかけながら、隙を見て別々の方向へと走り出した。


 アルフォンスは子供の頃よく使った抜け道を通って、何とか女性達を撒くことに成功した。
 逃げ込んだ先は、裏通り。
 昼間でも通行人の姿がまばらなこの裏通りは、お世辞にも、治安がよい場所とはいえない。子供の姿ならなおさら危険な場所だ。
 さっさと大通りへ出ようと、アルフォンスは早足で通りを進んだ。ときおり、ちらちらと後ろを振り返り、背後を確認する。
(兄さんは大丈夫かな?)
 兄を心配するあまり、気を取られすぎた。
 前を横切った人影に気づいたときにはもう遅い。相手の軍服の裾が視界に入った時には、もうその人物にぶつかる寸前だった。
「わっ!」
「きゃっ!」
 路地から飛び出してきた幼い男の子を抱きとめたのはリザ・ホークアイ中尉だった。
 アルフォンスにとって――と、いうか怪盗にとって――いずれ敵となる人物である。
 ただし、アルフォンスの中で勝手に、
 軍服の人=軍関係者
 という図式が成りたっているだけでホークアイ個人を知っているわけでもないし、ましてや、今、自分は子供の時の姿に戻っているのだ。面が割れる心配もないだろう。
「ご、ごめんなさい!」
 ぶつかったことを謝罪して慌ててホークアイから離れる。そんなアルフォンスを見てホークアイは、
「あら、こんな所にこんな子供が一人でいるなんて……ひょっとして迷子かしら?」
「ちがいます!」
 思わず即答で言い返してしまった。
 言った後で『しまった!』と思ったがもう遅い。
 おそるおそる上目遣いでホークアイの様子をうかがうと、彼女は顎に人差し指を当ててなにやら思案しているようだった。
「でも、こんな裏路地に子供が一人でなんて、危ないわ――」
 ホークアイがぶつぶつと呟いているうちにさっさとこの場を離れようと、アルフォンスが走りだそうとした、瞬間。
「わっ!?」
 ずべっ!
 道路のわずかな段差に足を取られて派手に転んだ。
「いたたっ!」
 身体を支えようと、地面についた手をひどく擦りむく。それを見たホークアイが慌ててアルフォンスの元へと駆け寄ってきた。
「大丈夫?」
 そうたずねながらアルフォンスの擦りむいた手を取り、傷の具合を確かめる。自分のポケットから取り出した真っ白なハンカチを手早く傷口に巻きつけた。
「あっ、はんかちがよごれちゃう!」
「いいのよ」
 アルフォンスの言葉にホークアイはにっこり笑った。
「はい、おしまい。お家に帰ったらちゃんと消毒してね」
 道路に座り込んだままのアルフォンスを立たせてやりながら、そう声をかける。
「でもえらいわね。転んでも泣かないなんて」
 よしよし、と小さい子にするみたいに頭を優しく撫でられたけれど、不思議と悪い気はしなかった。
(……なんだろうこの気持ち)
 自分の中に生まれた感情に戸惑いながらも、アルフォンスはぼんやりとホークアイの顔を見つめた。


→ It continues.