第三話
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「――これが、次のターゲットですか?」
 手渡された資料に添付されていた写真をしげしげとながめて、くすんだ金色の短髪の少年――アルフォンス・エルリックは目の前のソファに座っている長い黒髪の女性におずおずと尋ねた。
 彼女――イズミ・カーティスは足を組みかえながら、逆にアルフォンスに聞き返す。
「そうだ。何か不満でも?」
「不満つーか……ムリだろコレ!!」
 資料をぐしゃっと握りつぶしながら大声でわめくのは、アルフォンスの隣に立っていた蜂蜜色の髪を三つ編みにした少年、エドワード・エルリックだ。
 師匠である『怪盗F・A』こと、イズミ・カーティスから呼び出しを受けた、エルリック兄弟は、前回の汚名をすすぐべく(?)二回目の仕事に挑もうとしていた。
「だいたい常識で考えてムリ! 運べないって!」
「そうですよ師匠。たった二人で全身鎧は盗み出せません!」
 必死にイズミに抗議する二人。そんな弟子達を見ながら、イズミは顎に手を当てて考え込んだ。
「……そうかい?」
「「そうです!!」」
 ものすごい形相で言う二人。イズミは仕方なく、ターゲットの品の変更をすることにした。
 そして――
「んで、変更したターゲットがコレ……」
 新しく手渡された資料を、渋い顔で睨みながらエドワード。
「全身鎧から変更されて、次が槍……」
 同じく資料片手に、眉間にしわを寄せながらつぶやくアルフォンス。
「槍でもたいがい大きいよね……」
「……どうやってこっそり運べというんだ、コレを!」
 頭を抱える弟子達の様子をのんびり腕を組んで眺めながら、イズミはさらっと一言。
「それぐらい自分達で考えな」


 二回目の仕事――槍を盗む――
 その、ちょっと(?)ムリのある仕事の計画を立てにエルリック兄弟は街に来ていた。
「とりあえず、その槍を持ってるっていう武器商人の家の間取りとかを手に入れなきゃ」
「武器商人? 美術商じゃなかったっけ?」
「え? そうだった?」
 こんな道端でイズミからもらった資料を見るわけにもいかず、かなりおおざっぱな覚えかたしかしていない二人は、自分達の話が食い違うたびに顔を寄せ合って考え込んだ。
「まあターゲットの場所はだいたい覚えてるから、とりあえず間取り図だけでも調べてくるよ」
「そうだな、それじゃアル。そっち頼む」
「えっと……一時間後ぐらいに、この通りで待ち合わせ。でいいよね?」
「ああ」
「じゃあ後でね。兄さん」
 早足で目的の場所へと移動する弟を見送りながら、エドワードは一人考え込んだ。
「さて、オレはどうするかな?」
 周辺の地図でも手に入れて、撤退時のルート検索でもしようか……などと考えながらエドワードがのんびりとした足取りで歩いていると、通りの向こうから軍服を着た黒髪の男が、手元の資料を読みながら歩いてくるのが目に入った。
「げっ!」
 おもわず苦虫を噛み潰したような顔になるエドワード。
 その軍人は、誰であろうロイ・マスタング大佐であった。
(まずい! マズい!! アイツとはかかわりあいになりたくねぇ!)
 いくら仮面をしていたとはいえ、ロイには至近距離で顔を見られているのだ。自分の正体がバレる可能性も高い。
(気付かれないうちにとっとと逃げよう!)
 そう考え、エドワードはくるりと踵を返すと、もと来た道を戻りはじめる。
 しかし、エドワードのその行動は裏目にでたようだ。いきなり逃げるように方向転換した子供を不審に思ったのか、ロイが小走りに近寄ってきてエドワードの肩をたたいたのだ。
「ちょっと待ちたまえ君」
 ぎくっ!
 思わずぎくりと立ち止まる。おそるおそる背後を振り返ったエドワードと目が会うと、ロイはやや真剣な面持ちで、
「君。前にどこかで私と会ったことはないかい?」
 と聞いてきた。
(やべぇ!)
 内心、冷汗をだらだらかきつつ、エドワードは何とか平静を装って、首をぷるぷる横にふった。
「本当に?」
 こんどは、首を縦にこくこく。
「うむ? そうか……」
 訝しげにじっと見てくるロイに、エドワードはドキドキしながら必死に念じる。
(気づくな、気づくな、気づくな……)
 そんなエドワードの思いに気づくはずもないロイは、ふいに手を伸ばすとエドワードの顎に指をかけ、ついっと上を向かせた。
「?!」
 ぎょっとしたエドワードが思わずロイの整った顔をまじまじと凝視するが、彼は特に気にした風もなくエドワードの金色の瞳を覗き込んだ。
「さっきから一言もしゃべらないが、まさか、声が出せないというわけでもないだろう?」
 また首を縦にこくこく。
「だったら何か言ったらどうだね? 二代目『怪盗F・A』君?」
「!!」
 ロイのその言葉に、エドワードは自分の顎をつかんでいたロイの手を払いのけるとさっと後ろに飛び退った。
「……なんなんだアンタ?」
 睨みつけるエドワードの視線を真正面から受けながら、ロイはにやりと笑う。
「やはり本人か。私の記憶力もまんざらではないようだ」
 どうやら、鎌をかけたれたらしい。
「っ〜〜〜!!」
 引っかかった自分に腹が立つが、今は、それを怒っている場合ではない。何とかこの場から逃げ出そうとじりじりと後退る。が、エドワードがさがった分だけロイが前に進んでその距離を詰めてしまう。
「そんなに警戒することはない。今は捕まえたりはしない」
「?!」
 ロイへの警戒を緩めることなく、聞き返した。
「どういう意味だ?」
「言葉どおりの意味だよ。残念だが私はこれから出かけなければならない用があってね、君の相手をしてあげられる時間はないんだ」
 心底残念そうなロイ。
 エドワードはムッとしながら、
「だったらオレなんかに声かけてないで、さっさと行けよ!」
「気になる相手に出会ったら、やはり声の一つもかけたくなるというものだよ」
「はあぁ?!」
「前に言わなかったかな? 私は君のことをひどく気に入ったのだよ」
「アッタマおかしいんじゃないの? オレはアンタの敵だぜ?」
 呆れた様子のエドワードにロイはふっ、と笑って、
「恋に障害は付き物だ」
 エドワードの頭の上に手を置き、少年の蜂蜜色の髪をくしゃくしゃっとかき混ぜた。
「意味わかんねーよ」
「いずれわかるさ」
 優しげな顔でそんなことを言う。
 エドワードがなんとも言えない顔でロイを見上げると、ロイは笑いながらぽんぽんとエドワードの頭を軽くたたいて、
「そろそろ本気で遅れてしまうので今日はこれで失礼するよ。また会おう怪盗君」
 言うだけ言って悠然と去っていった。
「…………」
 そのロイの後姿を、ぼーぜんと見送っていると背後から肩をたたかれた。
 はっとして我に返ると、見取り図を手に入れてきたらしいアルフォンスがエドワードの顔を覗きこんでいた。
「どうしたの兄さん何かあったの? 顔赤いよ?」
 その弟の言葉に、エドワードは慌てて服の袖で頬をごしごしこすりながら大声で言った。
「な、なんでもない!」


end