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「やあ」
「…………っ」
大勢の人々が行きかう昼間の大通り。
そのど真ん中で、自分の行く手をふさぐようにして立ち止まったまま、こちらに向かってにこやかに手をふっている人物――青い軍服に身を包んだ、闇色の髪に黒い瞳の青年の姿――を視界に捕らえて、エドワード・エルリックは買い物袋を握り締めて不機嫌そうにのどの奥で唸った。
肩から滑り落ちてくる蜂蜜色の三つ編みをうるさそうに後ろへと払って、食料品が入った紙袋を両手で抱えなおし、エドワードは自分の前に立つ闇色の髪の青年。ロイ・マスタングを金色の瞳で睨みつける。
「………………」
「荷物をはんぶん持とうか?」
と、言うロイの申し出をきっぱりと断ってさっさと歩き出す。と、なぜか彼も同じように自分の後をついてきた。
「何のつもりだ? ひょっとして待ち伏せか?」
ロイにむかって冷ややかに尋ねると、
「待ち伏せとは人聞きの悪い。私はただ、君に会いにきただけだよ」
詳しく話を聞けば――家の周辺にまで押しかけるとエドワードが嫌がるので、しかたなくこういった方法を取った。とのこと。
もっとも、エドワードとしても、自分の本業――実はエドワードは『怪盗』なのだ。といっても、最近『二代目』を継いだばかりの駆け出しだが――と、ロイの職業――それに対して、こちらは軍の大佐の役職につく人物――のことを考えれば、ロイの行動にも、しぶしぶだが納得しないでもない。
軍人であるロイに家の近くをうろつかれると、色々と面倒が起こる可能性も出てくるからだ。
(しょうがないか、師匠(せんせい)と鉢合わせでもしたら最悪だし……)
自分の師匠であるイズミ・カーティスの顔を思い浮かべながら、ぼんやりとそんなことを考えて……そこで、はた、と気がついた。
「ひょっとして、朝からずっとここで立ってたのか!?」
「いや。今は昼休みだ」
昼休みの休憩時間を利用してエドワードに会いにきた、ということらしい。
「……実はヒマなのかアンタ?」
「いや、そういうわけではないのだが……」
呆れたようなエドワードの言いように、ロイは苦笑した。
「少しでもエドの顔を見れればと思ってね」
そう思って、食事をするついでに街まで足を伸ばしたのだという。
「ふーん」
そっけない返事を返えしたものの、ロイの言葉や行動から、少しでも自分に『会いたい』と思ってくれていることが伝わってきて、妙に気恥ずかしいというか……
「………………」
わずかに紅潮した顔を隠すようにロイから顔を背けると、その背後で、ロイが吐息だけで笑ったのが気配でわかった。
ロイと一緒に大通りを歩いていると、横手にある細い路地からロイが着ているもの同じ青い軍服を着た女性が、こちらに向かって小走りで駆け寄ってくるのが目に入った。
「大佐!?」
「ああ、中尉か」
長めの金髪をきりりとアップにしたその女性は、ダークブラウンの瞳に驚きの色をわずかに浮かべて早口で尋ねてきた。
「どうしたんですか? 街にいらっしゃるなんて、何か緊急の事態でも!?」
彼女の手には一枚の手配書。そして彼女の肩越しに路地の奥をのぞくと、その奥では数人の軍人がなにやら打ち合わせをしているのが見えた。
(何か事件でもあったのかな?)
エドワードが辺りをきょろきょろと見ていると、ロイと中尉と呼ばれた女性とのやりとりが耳に入ってきた。
「食事をしにきただけだ」
「そうですか。ちょうどよかった。少々問題が……」
「それは任せるよ……ああ……」
「では……」
小声で打ち合わせをしているロイと中尉の横顔を少し離れた場所から眺めながら、
(なんだ……やっぱり仕事だったんだ……)
自然と二人に無視された格好になったエドワードは、無意識にそんな事を考えて――はっと我にかえった。
(って、なに考えてんだ、オレ!)
ロイは色々と忙しい。
そういうことを知ったのは、つい最近――ロイに好きだと言われて、自分の本当の気持ちをロイに伝えてからだ。
立場上デスクワークが多いようだが、部下達の手に余るような大きな事件ともなれば、ロイ自らが現場の指揮に立つこともある。
目の前の女性の真剣な面持ち。それに奥に待機している軍人の様子に、なにやらややこしい状況になっていることは感じられた。が――頭ではそう理解しているものの、ほったらかしにされて気分がいいわけはなく。
「………………」
なんとなく――先に帰る。とも言い出せずに――黙ったまま、ロイと中尉のやりとりを眺めていたら、ぱちっとダークブラウンの瞳と目が合った。
「?」
エドワードがきょとんとしていると、彼女はふわりと優しげに微笑んで、
「あら、どこかで見たことがある子だと思ったら、あの時の……」
「えっ!?」
自分を知っているような口ぶりに、エドワードは驚いた。
(この人は『仕事』の時に何度か遠目では見てるけど、正体バレるほど近くで会ったことないぞ!?)
わたわたとしているエドワードの様子に、ロイが助け舟を出す。
「君はあの時、意識が無かったから覚えていないようだが……ほら、君が宿屋に立てこもった犯人達に人質にとられた事件――」
「ああ、あれ……」
ロイの説明をそこまで聞いて、やっと彼女の言っている『あの時』が理解できた。あの時はたしか、ロイと彼の部下たちが宿屋の前で犯人と交戦していた。ロイの部下である彼女がそこにいたとしても、おかしくはない。
「元気そうでよかったわ」
「おかげさまで……」
にっこりと優しく笑いかけてくる彼女に、困ったような笑みを浮かべてエドワードは適当に話を誤魔化した。
→ It continues.