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「どこに逃げた!」
「狭い所で銃を使うな! 味方に当たるぞ」
「早く探せ!」
怒号と破壊音が飛び交う中を、エドワードは必死に逃げ回った。
かなりの時間は稼げたはずだ。アルフォンスのことだからもう時計塔からは逃げ出せているだろう。
(そろそろオレも逃げるか……)
そう思い、手近な部屋に飛び込むとすばやく扉を閉める。
真っ暗なその部屋は、今は使われていないらしく家具一つなく、やけに埃っぽかった。
部屋の奥に窓があることを確認して歩み寄ると同時に、外で声がした。
「どこにいきやがった!」
「あんなガキになめられてたまるか!」
(やっべー)
どうやら、騒ぎを大きくしすぎたらしい。
頭の中に浮かんだ師匠が鬼のような形相で睨んでくる。ぶるり、とふるえつつエドワードは気を取り直して内側から窓のカギを外した。
窓から身体を半分ほど出したところで、
コツコツコツコツ……
靴音が近づいてきた。かなり近い。
エドワードは慌てて窓の外に出ると窓を苦労して閉める。
カチャ。
エドワードが窓を閉めたのとほぼ同時に、その部屋のドアが開いた。
中に入ってきたのは黒い瞳に闇色の髪の人物――ロイ・マスタング大佐であった。
ロイはまっすぐに窓辺まで歩み寄ると、窓を開けて一言。
「今夜は綺麗な月が出ているから、そこに隠れているとここから丸見えだよ。そこの君」
「!?」
今日が満月だということをすっかり失念していた。
エドワードが暴れている間に雲が風に流され、空には星々が瞬いていた。
当然、窓の外にいるエドワードの姿も月が明るく照らしだしてしまっているので、部屋の中からでもその姿を確認することができる。
「くっ!」
慌てて踵を返そうとするが、そこは足場の悪い窓の外。わずかな足場にどうにか立っていたエドワードは、当然のごとく足を滑らせた。
「うわっ!?」
「危ない!」
バランスをくずしたエドワードにむかって、ロイが素早く手を伸ばす。
背中から抱きしめられる格好で何とか落下を免れたエドワードだったが、はたと気がついた。
助けてくれた相手は――敵だ。
「放せ! テメー」
「こんな危ないところで暴れないでくれないか」
暴れだしたエドワードを背後から抱きかかえたまま、ロイはその小柄な身体を部屋の中に引きずり込んだ。
どさり!
ふたりして埃っぽい床の上に倒れこむ。
ロイが小さな身体を支えて起こしてやると、その金髪の侵入者は果敢にもロイに向かって攻撃的に身構えた。
「元気がいいな」
ロイが苦笑するとエドワードはむきになって言い切った。
「うっせー。お前を倒してオレは逃げる!」
ぎっ、と睨みつけてくる仮面から見える金色の瞳に何か引かれるものを感じて、ロイはさらに話しかけた。
「君が二代目『怪盗F・A』か?」
「そうだ」
けっこう律儀にエドワード。
そんなエドワードの態度にロイは何とか笑いをかみ殺して続けた。
「年は?」
「……14」
「14歳? ……それでか?」
その不用意な一言がエドワードの逆鱗に触れた。
「だれがちびだと!!」
「何もそんな風には言っていない」
「うるせー!」
弁解する隙も与えずにロイにつかみかかる。そのエドワードの攻撃をあっさりとかわすと、ロイは反対にエドワードの両腕をつかんで壁に縫い付けた。
「くっ! は、放せ!」
「放せと言われてはいそうですかと手を放す馬鹿はいないだろう?」
「……っ!」
エドワードの顔が怒りでみるみる真っ赤になってくる。そんなエドワードにロイは話を続けた。
「二代目『怪盗F・A』は仮名だろう? 本名は?」
「軍の人間に本名ばらす怪盗がどこにいんだよ!?」
「ここにいるかもしれないだろう?」
「ッ!!」
からかわれてむっとしたのか、エドワードはそれきり口をつぐんだ。仕方なくロイはそれ以上の質問をあきらめる。
「逃げたいのなら、逃げるといい」
「!?」
突然そんなことを言い出したロイを疑わしげな目で見つめると、
「怪盗君。私はどうやら君が気に入ったようだ」
そう言うなり、ロイは腕をつかまれて動けないままのエドワードの額に軽く口づけた。
ちゅっ。
思わずビシッ、と固まる。
その様子を面白そうに眺めてから、ロイはあっさりエドワードの腕を解放して、数歩後ろに下がる。
「また会おう。怪盗君」
余裕の態度でそう言って悠然と部屋を出ていくロイの後姿を、エドワードは呆然と見送った。
「なんなんだ、あいつ……?」
end