第一話
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 時間を遡って一日前。

 前触れもなく軍に届いたその一枚の予告状は、軍内部を混乱に陥れるには十分だった。
「た、大変です大佐!」
 慌てた様子でノックもなしに部屋に駆け込んできたその部下を、この部屋の主――ロイ・マスタングはさめた目で見つめた。黒い瞳に闇色の髪の青年である。彼が『大佐』という地位について以来。こういう展開には過去何度か遭遇したが、どれも面白い話ではなかったように記憶している。
「なんだ?」
 仕方なしに声をかけてやると、その部下は震える手で握っていた紙切れを示し、こう言った。
「怪盗から予告状が来ました!」
「はぁ?」
 なにを言っているんだこいつは、という目でその紙切れを確認するとそこには、子供のような筆跡で、


   明日の夜
   10時頃
   街の時計塔にある銀時計をいただきに参ります

                二代目『怪盗F・A』―――
                                    』


 と書かれていた。
「誰かのイタイズラだろう」
 そう言って紙切れを部下につき返し、ロイが仕事に戻ろうとした時、
「大佐。予告状が来たとの報告が……」
 開けっ放しのドアから、ブラウンの瞳に長い金髪を後ろできりりと結い上げたクールな女性が入ってきた。
「君もその話か。そんなイタズラに……」
「いえ、イタズラではないと思います」
 彼女――リザ・ホークアイ中尉は、部下の男が持ってきた予告状を手に取ると、ロイに見えるように机の上に広げた。
「このような名前の怪盗は今現在、存在していません。誰かのイタズラにしては妙に不自然です」
「まあ、私も二代目『怪盗F・A』などという名前は聞いたことがないが……」
 信頼のあついホークアイ中尉の真剣な言葉に、ロイは手にしていたペンを机の上に置き、頭をひねった。
「誰か知っているやつはいるか?」
 ほかの部下に問うと、やや歳のいった兵士がおずおずと手を上げた。
「自分の思い違いでなければ、確か10年ぐらい前に『怪盗F・A』という名前の怪盗はいたと思います」
「10年前!?」
「はい」
 なるほど、自分が知らないわけだ。そんな昔の怪盗の名前など覚えていない。
「とりあえず――わざわざ予告状が来ているんだ。こちらもそれなりに出迎えてやれ。今晩から交代で時計塔の警備に当たれ」
 そのロイの指示に、さっき夜勤明けで引継ぎを終えたばかりのジャン・ハボック少尉が情けない顔で言った。
「オレもですか〜?」
「あたりまえだ。さっさとしろ」


→ It continues.