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夜の闇が、あたり一面を覆い隠している。
空はどんよりと曇っていて、星明りさえ地上には届かない。
しかし、今日は満月。
時折、雲の切れ間から差し込む月光は、暗闇に慣れすぎた目には驚くほど明るく感じられる。
「なぁアル……ホントにやるのか?」
暗闇の街の中心に、ひときわ高くそびえる時計塔。
その時計塔を見上げていた少年がそうつぶやいた。蜂蜜色の髪を後ろで三つ編みにした、金色の瞳の少年である。
その彼の隣では『アル』と呼ばれた、ややくすんだ金色の短い髪に、明るい茶色の瞳の少年が真剣な表情で、時計塔の入り口に面した通りを見ている。
「あたりまえ! もう予告状だって出しちゃったんだから、今さらぐずぐず言わないでよ兄さん」
兄さんと呼ばれた少年――エドワード・エルリックは、弟のアルフォンス・エルリックの手元を覗き込んでげんなりした。
「それ……出したのか……」
アルフォンスの手に握られているのは、昨日、軍に出してきた予告状の下書き――の裏に書かれている、時計塔内部のおおざっぱな見取り図だった。
「ほら、ぐずぐず言わない! この初仕事失敗したら、師匠(せんせい)になんて言われるやら……」
「う゛っ!?」
そういいながらちょうど雲の間からさしてきた月光を頼りに、アルフォンスは持っていた見取り図にさっと目をとおした。
だいたいの内部構造は、家を出る前に頭に叩き込んだ。今、見取り図を見ているのは、確認の意味合いのほうが大きい。
「……兄さん?」
先ほどから黙り込んでしまった兄を不審に思い紙面から顔を上げると、エドワードはなぜか、しゃがみこんで頭を抱え、一人、苦悩していた。
「うううっ……」
「兄さん……」
どうやら師匠であるイズミ・カーティスのこわ〜いお仕置きを想像してしまったようだ。
「ほら、いつまでもここにいたら警備のやつらに見つかっちゃうよ」
「……それもそうだな」
呆れ顔のアルフォンスに促され立ち上がると、エドワードは辺りを見回す。
人影はない。
二人で顔を見合わせうなずきあうと、風に乗って流れてきた雲が月を覆い隠すのと同時に、走り出した。
時計塔に向かって――
→ It continues.