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「はぁはぁはぁ」
動悸の激しい心臓と、荒い自分の息づかいがやけにうるさい。膝から下ががくがくと震えて立っていられなくなった。地面にへたり込んでまわりを見渡せば、自分の部下も似たり寄ったりの状況だった。
「はぁはぁはぁ」
「ぜーぜーぜー」
「………………」
体力の限界まで走りまわって、疲れ果てて地面にへたり込む。そのハボックたちのそばでアルフォンスだけが――疲れを知らない様子で立ったまま――ぺこぺこと頭を下げて平謝りしていた。
「すいません。すいません。本当にすいません!」
「はぁはぁはぁ…………くっそ」
目に入る汗をうっとおしそうにぬぐい、何度か深呼吸を繰り返してどうにか心臓をなだめると、ハボックは半ば八つ当たり気味にうなる。
「……エドのヤロー、ちっちゃくなったくせに何でそんなに元気に動きまわれるんだよ!」
すると――
「ちびって言うな!」
エドワードの声とともに、どこからともなく小石が飛んできてハボックの後頭部を直撃した。
「いてっ」
小石のあたった後頭部を押さえながら、きょろきょろと辺りを見まわす。石はどうやら背後の植え込みの中から飛んできたものらしい。
(ん? ひょっとしてコレは使えるか?)
ハボックのぴんと脳裏に閃くものがあった。
まだがくがくとしている膝を叱咤して根性で身体を持ち上げると、アルフォンスを手招きで呼び寄せていまだにへたり込んでいる部下の側に近寄る。
「ちょっと耳貸せ」
ごにょごにょと耳打ち。
『了解です』
声をそろえて返事をすると部下たちは――立てないので座り込んだままだが――口々に『チビ』だの『豆』だの『ミジンコ』だのと叫びはじめた。
すると、そのセリフに腹を立てたエドワードが、
「誰がドちびだとこのヤロー」
怒声とともに小枝や小石をこちらに向かって投げつけてきた。
「いてっ、いたたっ!」
「少尉!」
「いいから続けろ!」
エドワードが投げつけてくる小枝や小石を避けながら――いくつかは避けきれずに当たっていたが――ハボックはそれが飛んでくる方向に見当をつけて、アルフォンスに目配せをするとエドワードを捕縛するためによろよろと駆け出した。
「くっそ……」
小石を投げるのにいいかげん疲れてきたエドワードは、しつこく追いかけてくるハボックたちの手をかわし、木の枝をつたって二階の開いている窓へと逃げ込んだ。窓枠に腰をおろして下を見下ろすと、ハボックと彼の部下はいまだに『豆』だの『チビ』だの叫んでいる。
「あ〜い〜つ〜ら〜! 元のサイズに戻ったら絶対シメる!」
怒りのこもった低い声でなにやら物騒なことを心に誓う。
完全に据わった目で庭を見下ろしていると、頭上にふっと影が落ちてきた。背後から伸びてきた手にコートの裾をつかまれて――その感触に驚いてあわてて背後を振り向くと、
「やっと見つけたよ。鋼の」
どこかほっとした顔で立っているロイの黒い瞳と目が合った。
「大佐!?」
その顔を見た途端――笑われたことを思い出してしまい――エドワードはむっとなってロイの手からコートの裾を力任せに奪い返すと、再び逃げ出そうと立ち上がる。
「ああ、待ってくれ」
しかし、エドワードが駆け出すよりも早く、ロイが待ったをかけてきた。しゃがみこんでエドワードに視線の高さを合わせると、真剣な表情で頭を下げる。
「エドワード、私が悪かった。笑ったりしてすまなかった」
素直に謝罪してくるロイに、エドワードはたっぷりと30秒ほど黙考して――
「………………………………大佐がそんなに言うならしょうがないから……許してやる」
わざとそっけなくそう言った。
「……エド」
途端に嬉しそうな顔になると、ロイはそっと両手を伸ばしてきた。抵抗せずにじっとしていると、ロイはエドワードのちいさな身体を両手で掬い上げて自分の肩の上にそっとおろす。
「さ、部屋に戻ろうか。ちいさくなってしまった時の詳しい話を教えてくれ」
「ああ」
ロイの肩にちょこんと座ってエドワードがうなづく。
「ああ、そうだ。鋼のを探しにいったアルフォンスくんも呼び戻さないとな」
「アルなら庭にいるぞ」
「そうか」
そんな話をしながら、二人はいまだにエドワードの捜索に借り出された人間が駆けまわる廊下を通りぬけて執務室へ向けて歩き出した。
――おまけ――
執務室の机の上に座り、自分の(現在の)身長の3分の1ほどもあるクッキーを両手で持ってかりかりとかじっているエドワードの姿を、机の上に頬杖をついて上から眺めながらロイはでれでれと相好を崩していた。
(かわいい……)
普段のかわいさに小動物的な愛らしさが加わって妙にかわいい。
散々走りまわってお腹がすいたのだろう。アルフォンスが迷惑をかけた人々に謝罪してまわって、なんとか事態を収拾して執務室に戻ってきたころには、エドワードはしっかりとクッキー一枚を完食していた。
「もっと食べるかい鋼の?」
「もーいい」
人差し指でちいさな蜂蜜色の頭をそっと撫でてやると、エドワードは眠そうに目をこすって、あくびをひとつ。
走り疲れたのか――ロイの手にもたれて眠ってしまった兄を見て、アルフォンスは頭を抱えた。
「兄さん。大佐に相談しなくていいの!? いったい何しにここまで来たんだよ〜」
「まあまあ。詳しい話は鋼のが起きてからにしようか」
そう言いながら、嬉しそうにちいさいエドワードの頭を撫でているロイを見て、アルフォンスはますます頭を抱えた。
end