パニック・ぱにっく
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「――というわけで、20pほどのサイズになっていると思われるエドワード・エルリックを探せ。まだ東方司令部の敷地内より外には出ていないはずだ。各部屋をしらみつぶしに探していけ、以上。質問等がなければ各自捜索を開始しろ!」
「はい!」
 ばたばたと部屋から出て行く部下たちを見送って、ハボックは大きくため息をついた。
 いなくなった時間から考えても、この東方司令部の敷地内から外には出ていないだろうが、ちいさくなったエドワードをアルフォンスと自分だけで探すのには無理がある――早く見つけられないと仕事もできないし――という理由で、とりあえず人海戦術にでてみた。自分の部下に声をかけて各部屋をしらみつぶしに探させる作戦だ。
「とりあえず、もうちっと人数増やすか……」
「すいません、この忙しい時に……」
 自分の後をついてきながら、さっきから申し訳なさそうにしているアルフォンスにむかって手をひらひらと振って、
「アルが気にすることはないさ、大佐の命令だしな。それにさっさとエドを見つけないと書類にサインがもらえないしな」
 そう言っておどけるように笑って見せる。
「すいません」
「とにかくエドを探すか。どっか行きそう――というか、隠れてそうな場所に心当たりは?」
 ふるふると首を横に振るアルフォンスに、ハボックはやれやれと肩をすくめた。
「やっぱり、しらみつぶししかないか」


 それから――
 手のあいていそうな人間を片っ端から投入して、ちっさくなったエドワードの捜索が始まった。
 各自で手分けをして、部屋という部屋の扉という扉を開け、引き出しという引き出しを開ける。ゴミ箱を見れば中をのぞきこみ、給湯室を通りかかればヤカンの蓋を開けてみる。しまいには、ついでとばかりに自分の机の上を片付ける者まで出てきて、室内はさながら年末大掃除のような様相を呈してきた。
 と、そこに昼食をとるために外出していたリザ・ホークアイ中尉が戻ってきた。
 長めの金髪をきりりとアップにした彼女は、東方司令部のいたるところで繰り広げられているその光景を目にして、ダークブラウンの瞳を丸くして言った。
「いったい何をしているの?」


「――というワケなんです中尉。本当にすいません!」
 恐縮しまくっているアルフォンスに、ホークアイはにこっと笑って手を横に振った。
「アルフォンスくんが謝らなくてもいいのよ。もとはといえば、エドワードくんの気持ちも考えないで軽はずみな言動をした大佐が悪いんだし」
 笑顔でさらりときついことを言う。
「それでハボック少尉。どのぐらいの捜査範囲でエドワードくんを探しているのかしら?」
「とりあえず、東方司令部の部屋をすべて……ですかね。下の階から順番にみていってるはずでが……さすがに全員をこんな捜索にまわせないっすからね。まだ二階の部屋の半分も済んでないっすよ」
 くわえタバコのまま大げさに肩をすくめて見せる。そんなハボックを見ながらホークアイは考え込むように顎に手を当てた。
「そうね…………そういえば、庭は探してみたかしら?」
「あっ!」
 言われてはじめて気がついたのか、アルフォンスがぽむと手を打った。
「そう言われれば探してないっすね。アルの話じゃそんなに遠くにはいってないと思ってたけど……庭はすっかり見落としてた」
 ぽりぽりと頬を人差し指でかきつつハボック。
「ボク、外を見てきます!」
 だっと駆け出したアルフォンスの背中にハボックが声をかける。
「何人か連れてオレも後で行くから」
「はい」
 遠ざかっていく全身鎧の背中を見送りつつ、
「エドワードくんが早く見つかってくれればいいのだけれど」
 ホークアイはふぅ、とため息をついた。


 建物から外に出ると、真昼の太陽がまぶしい。
 風は吹いていないが鳥でもいたのだろうか、がさがさと音がして木の葉が一枚足元に降ってきた。
(ほんとに、兄さんどこに行っちゃったんだろう?)
 庭は室内以上に隠れられる場所が多くてエドワードを探すのに骨が折れそうだった。アルフォンスはちいさくなってしまった兄の姿を探してきょろきょろと辺りを見まわした。
「兄さ〜ん!」
 大声で呼んでみると――
「おう」
 意外にも、返事が返ってきた。
 しかも、すぐ近くだ。
「えっ!? どこ?」
 あわてて左右を見渡す。すると、
「ここだ、ここ」
 声のしたほうを視線でたどっていくと――
「……上!?」
 自分の頭の上にエドワードがちょこんと座っていた。ぷらぷらと揺れる靴の裏がかろうじて視界の端に見える。
「いったいいつからそこに!?」
 驚いてたずねると、エドワードはよっと弟の左肩の上まで降りてきてそこに腰をかけながら、
「お前が外に出てきてすぐ、かな。木の枝から飛び降りた」
 さらりと言われて、アルフォンスはガーンとなっておちこんだ。
(ぜ、全然気がつかなった……)
 おちこんでいるアルフォンスをよそに、エドワードはまだご立腹なのかしきりにぶちぶちと文句を言っていた。
「ったく、だいたい大佐が悪いんだよ。人がマジメに相談にいったってのに何も笑うことはないだろ!」
「いや……大佐の気持ちもわからなくはないけどね」
 思わず小声でポツリとこぼしたセリフに、エドワードは、
「なにぃー!」
 激怒して立ち上がった。
 と、そこに部下を3人ほど連れたハボックが走ってきた。
「おーいアル! エドのヤツ見つかったか!?」
「あっ、ハボックさん。兄さんならここに――ってあれ!?」
 左肩の上にさっきまでいたエドワードの姿がない! ほかのところに移動しているのかとあわてて身体を見下ろして見るが、エドワードの姿はどこにもなくなっていた。
「ごめんなさい。さっきまでここにいたんですけど」
「おいおい、しっかりしてくれよ〜」
「すいません……」
 がっくりと肩を落とすハボックに、アルフォンスも申し訳なさそうに頭を下げた。
「……まぁ、さっきまでいたんならそう遠くにもいってないだろう。しらみつぶしで探すぞ」
 部下にそう声をかけて、ハボックも手近なところに生えていた植え込みのかげを覗き込む、それに習ってアルフォンスも近くの木の根元を覗き込んだ。


 庭に生えている木々や植え込みのかげを手分けして探しながら、
「……なんでオレがこんなことを〜」
 思わずハボックが情けなさそうにつぶやいた。その声が聞こえたのか、後ろのほうでしゃがんで木の根元を探していたアルフォンスはがばっと立ち上がって、
「すいません。すいません。本当にすいません!」
 ハボックと彼の部下の人たちにむかってぺこぺこと平謝りで謝りだす。
「あんたのせいじゃないから、そんなに謝らなくてもいいよ」
「そうそう」
 アルフォンスに謝りたおされているハボックの部下たちが、冗談めかした口調で軽口を叩いた。
「それにしても、探してるものが小さいと見つけづらいですね」
「ほんとほんと。ちっこいと探しづらいですよ」
 そう言って植え込みをかきわけていた部下の一人が――
「誰がドちびだと!!」
 という怒声とともに、顔面から植え込みに突っ込んだ。
「……なにやってんだ、お前?」
 植え込みから下半身を生やしてもがいている部下に、ハボックが冷たい視線を向ける。
「でも、さっき兄さんの声が聞こえたような……」
「本当か?」
 そう言ってきょろきょろしていると、なんとか植え込みから脱出してきたその部下が不思議そうに首をひねった。
「今、いきなり後ろから押されたような感じが……」
「!?」
 アルフォンスとハボックは顔を見合わせて――
「エドの仕業か?」
「たぶんそうだと思います」
「エドが近くにいるぞ探せ! 探すんだ!」
 部下に向かって声を張り上げた。


 しばらく辺りを探していると、
「いたっ!」
 その声に、全員がいっせいにそっちを振り返る。
 彼が指差す先には、地面の上をダッシュしていくちいさな人影が――
「逃がすか!」
 部下の一人がだっと、エドワードらしき人影に飛びついた。しかし、
 ゴッ!
 目測を誤ったのか、エドワードがかわしたからか――なにやらやたらと痛そうな音をたてて頭から激しく地面に激突する。
「〜〜っぅ!」
 声も出ないほどの痛みに、涙目になってうずくまったまま起き上がってこない。
「だ、大丈夫ですか!?」
 あわてて駆け寄ったアルフォンスに答える余裕もないようだった。
「あ、ハボック少尉あそこに!」
 声をかけられてハボックはあわててそっちに目をやる。見るとエドワードが植え込みに飛び込むところだった。
「捕まえろ、逃がすな!」
 エドワードが逃げ込んだ場所の一番近くにいた部下にむかって叫ぶ。彼はハボックの言葉と同時にエドワードを追って植え込みへと勢いよく飛び込んだ。
「うおっ!?」
 バキバキッ、と枝をへし折る音ともに枝の間に挟まって動けなくなってもがく部下を尻目に、エドワードは身軽に木の枝を避けて植え込みの奥へと走り去っていく。
「エド、待て!」
 後を追いかけてハボックも植え込みぞいに走るが、ちいさな姿はすぐに枝葉にまぎれてわからなくなってしまった。
「くそっ、どこ行った!」
「あ、あの塀の上」
 見失ったエドワードを探しまわっていたハボックはアルフォンスの上げた声にがばっと塀の上を見上げた。すると、アルフォンスが指差す向こう――たまたま塀の上を通りかかった三毛猫の背中にエドワードが飛び乗ったのが見えた。
 そのまま塀の上をとてとてと走り去る。
「こら、動物を移動手段に使うな! ずるいぞエド!」
 いったい何がずるいのかよくわからないが――何やら色々わめきたてながらハボックは全力でエドワードが乗った三毛猫を追いかけまわした。その後をまだ元気な部下とアルフォンスが続く。
「エド、待ちやがれ!」
「待て!」
「兄さん待って!」
「逃げるな!」
 息が切れるまで走りまわったが、けっきょく逃げる猫には勝てず――とうとうハボックはエドワードの姿を見失った。


→ It continues.