パニック・ぱにっく
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「なんでオレがこんなことを〜」
 こんなことに巻き込まれた己の不幸を嘆きながら、ハボックは庭の植え込みをごそごそとかきわけていた。そんなハボックの隣では、同じようにこんなことに巻き込まれた彼の部下が、彼と同じような格好で植え込みの下を覗き込んでいた。
 そんな彼らの後ろでは、
「すいません。すいません。本当にすいません!」
 アルフォンスが大きな身体をめいっぱい小さくして、ひたすら謝りたおしていた。


 事の起こりは一時間前――


 自分に相談があるといって東方司令部を訪れたその来客に、闇色の髪に黒い瞳をした青年――ロイ・マスタング大佐は仕事の手を止めた。
「君が一人でここへ来るなんて珍しいな。今日はどうしたんだい?」
 机の前に立っているアルフォンス・エルリックの大きな全身鎧を見上げてそう聞くと、アルフォンスはおずおずと話を切り出した。
「それが、その……大佐に相談したいことがあるんです」
「相談?」
 聞き返す。と、
「兄さんのことなんですけど……」
「鋼ののことで?」
「はい……そうなんです」
 言いにくそうにいって、アルフォンスは後ろ手に持っていた見慣れないバスケットをロイに見えるように持ち上げてみせた――どうやらそのバスケットの中身が、自分に相談したいこと、のようだ。
 手早く書類を積み上げて脇にどけ、机の上をあけてやる。アルフォンスはその開いたスペースにそっとバスケットを置くと、
「これなんですけど……」
 言いながら蓋を開けた。
「うん?」
 アルフォンスに促されて、バスケットの中を覗き込む。
 その中に入っていたのは――
「――――――?」
 ちいさな、ちいさなエドワードだった。
 蜂蜜色の三つ編みに金色の瞳の少年が、いつもの丈の短い黒い上着に黒いズボン。その上にやはりいつものように赤いコートを着て、ものすごく不機嫌そうにバスケットの底で胡坐をかいている。普段のエドワードを、全長20pほどにまで縮めたような感じで、サイズだけがそのままちいさくなっているらしい。
「――――――――」
「その……旅先で、兄さんが小さくなってしまって……それで元の姿に戻すなにかいい方法がないかと、大佐に相談を――」
 と――
 そこまで黙ってアルフォンスの話を聞いていたロイが、
「ぷっ」
 こらえきれずに思わず吹き出した。
「うわぁ〜ん。大佐のバカヤロー!」
 ロイに笑われて傷ついたのかエドワードが大声でわめきながらバスケットから飛び出した。
 ぴょんと机の上から飛び降りて、たーっと走り去っていってしまう。
「ああっ! 兄さん!」
「あっ! 鋼の待ってくれ!」


 廊下をくわえタバコで歩いてきたジャン・ハボック少尉は、短い金髪の頭をがしがしとかきながら持ってきた書類に視線を落とした。
「……これで全部だよな」
 なんとしても今日中に大佐にサインをもらわなければならない書類だ。枚数をしっかりと確認してから、執務室能の扉をノックする。
 ――返事はない。
「あれ?」
 もう一度ノックをしてみたが、やはり返事はなかった。
「おかしいな……」
 人の気配は確かにするのに、返事はない――ちなみに、なにやらさっきからごとごとと物音がする。
 ハボックはしかたなく、扉に耳をぴったりと貼り付けて、室内の様子をうかがった。
 すると、
「兄さん〜出てきてよ〜」
「鋼の、私が悪かった。出てきてくれ」
 切羽詰ったような上司と、よく知っている兄弟の片割れ――弟の方――の声がする。
 しかも、内容がなんかヘンだ。
「はぁ?」
 いったい彼らは何をやっているのだろう? 話の内容からして、どうやらエドワードを探しているようだが、あの執務室の中でエドワードが――ちっさいとはいえ――隠れられるような場所はそう多くはないはずだ。
「なにやってんだ、あの人は?」
 あきれつつも、とりあえず必要な書類にサインだけもらってさっさと消えようと、ハボックは執務室の扉を開けた。
「失礼しま……す?」
 そこには――
「兄さん〜どこにいるの〜?」
 床の上にはいつくばってソファの下を覗き込むアルフォンスと、
「鋼の、どこだい?」
 引き出しを引っ張り出して、その中に半ば頭を突っ込むようにして声をかけているロイの姿があった。
「……いくらエドがちっさいからって、引き出しの中はむりっすよ大佐」
 思わず上司の背中に向かってそう突っ込むと、その声でハボックが入ってきたことにはじめて気がついたロイはしごく真面目に言い返してきた。
「いや、本当に今の鋼のは小さいんだ」
「そうなんですよハボックさん」
「はぁ?」
 二人そろって真面目な顔で力説されて、ハボックは間の抜けた声をあげた。


「――――と、言うわけなんです」
 ひとしきりアルフォンスの説明を聞いて、ハボックは事態のおおよその内容が理解できた。
「あーなるほど。それで、大佐に笑われてエドは怒ってどっかにいっちまったってワケか」
 なるほどねぇ、そりゃぁ大変だ。と他人事のようにうんうんと頷いてタバコをふかしていると、後ろからぽんと肩を叩かれた。
「?」
 後ろを振り返ると、なにかよからぬことを企んでいそうなロイの黒い瞳と目が合う。
「な、なんすか?」
 いやーな予感を覚え、びくびくしながら尋ねると、ロイは明るく一言。
「そういうことだハボック少尉」
「えっ?」
 そう言われても意味がわからない。あらためて聞き返すと、ロイはあっさりと。
「お前も鋼のを探せ」
「……………………ええっ!?」
 ロイの発した言葉がゆっくりと脳内まで浸透して――それが理解できた途端。ハボックはあわてた。
「オレ、書類にサインもらいにきただけっすよ!?」
 訴えるように持ってきた書類をパンパンと叩いてみせる。しかしロイは真面目に、
「上司命令だ」
「そんな〜仕事はどうするんすか!? この書類、今日――」
「仕事よりも、こっちが最優先だ」
 ハボックの訴えをさえぎってきっぱりと告げる。目がマジだ。
「そんな横暴な〜〜」
 情けない声を出すハボックの後ろでは、アルフォンスが申し訳なさそうに頭を下げていた。


→ It continues.