森の奥に住む魔物
-7-

「はっ!」
 びくりと身体を震わせて、エドワードが突然飛び起きた。
 包まっていた毛布を跳ね除けながら起き上がると、見張りをしていたロイが少し驚いた顔をしてこちらを覗きこんできた。
「どうしたエド?」
「い、今、悲鳴が……」
 そう言いながら、酸素を求めて喘ぐ。
 怖い夢を見た後のように心臓の鼓動が早い。口の中がからからに乾いていた。
「私には特に何も聞こえなかったが……」
 辺りを警戒するように見回すロイ。
「……………」
 しばらく呼吸が落ち着いてくるのを待ってから、起き上がって座りなおしたエドワードにロイが声をかけてきた。
「まだ朝までには時間がある。もう少し寝たらどうだい?」
 その言葉を、ふるふると首を横に振って拒んでから、そのまま黙って膝を抱えた。
 ぱちぱちと燃える焚き火の炎をぼんやりと眺める。エドワードはそこから視線を外さずに口を開いた。
「なあ」
「ん?」
「封印されてる魔物って強いんだろ?」
「まあ、弱くはないだろうね。それならば50年前に退治されている」
「だったら……」
 そこでいったん言葉を切ると、エドワードは焚き火から視線をはずす。自分の隣に座っている人物の、焚き火の炎の色が映りこんでいるその黒い瞳をひたっと見据えて問う。
「何で、ロイはオレたちと一緒に来てるんだ?」
「言っている意味がわからないんだが?」
「だから!」
 ロイの言葉にエドワードが焦れたように声を荒らげた。
「一回城に戻って応援連れてくるとか、他の国から魔女呼んでくるとか、色々他に出来ることがあるだろう? 頼みの師匠が留守だったのに、何でそのまま魔物退治するんだよ!?」
「もし仮に、私が一度城に戻ることにしたとして――君たち兄弟は、そのまま家で大人しくしていたかい?」
「うっ……」
 ロイに痛いところを突かれて思わず絶句。
「おそらく、師匠である魔女の帰りも待たずに、二人だけで魔物退治に行こうとしただろう。それがわかっていて、みすみす君たちだけを行かせるわけにはいかないな」
「なんで!?」
 思わず強い調子で問うと、ロイは優しげな笑みを浮かべて、
「エドとアルは私が守る。と約束したからね」
「それは……ウィンリィとロイが勝手に約束しただけで……」
「そうだな……でも、彼女と約束しなかったとしても、エドとアルは私が守るつもりでいた。だから同じことだ」
 そんなふうに言われて、エドワードはなんと返事をするべきか答えに困った。
「………………」
 困惑してロイの顔から視線を外すと、少し離れたところで、自分と同じように毛布に包まって寝ていた弟がもぞっと起き上がってくるのが見えた。
「う〜ん…………兄さんもう起きたの?」
 まだ眠い目を手でこすりながら起き上がってきたアルフォンスに気がついたロイは、
「朝まではまだ時間がある。二人とももう少し眠るといい。見張りは私がしておくから」
 エドワードとアルフォンスにむかってそう声をかけた。
「それじゃロイが全然寝れないじゃん」
 ぱっとロイを振り返ると、大きな手がそっと伸びてきた。
「大丈夫、私は徹夜にはなれている。さ、もう少しおやすみ」
「……うん」
 なでなでと頭を撫でてくる優しい手の感触に、エドワードは素直にうなづいた。


→ It continues.