森の奥に住む魔物
-5-

「じゃあ、留守番頼んだぞウィンリィ」
 大急ぎで荷物の準備をしたエドワードとアルフォンス。そしてロイの三人を見送るために玄関先まで出てきたウィンリィは、不安げな顔で三人の顔を見回した。
 目的地は、この家から徒歩で一日。森の奥に行った場所にあるらしい――アルフォンス談――調べ物や準備などで時間を取られてしまっているので、出発は昼をすぎていた。
 やや傾いてきた太陽の位置を気にしながら、
「ほんとに三人だけで行くの? イズミさんが帰ってくるのを待ったほうが……」
 引き止めようとするウィンリィに、アルフォンスが、
「師匠を待ってる間に封印が解けちゃったら、危ないのは国中の女の子なんだよ? もちろんウィンリィもだけどさ」
「でも………」
「大丈夫。彼らのことは私が責任を持って守る。それに、私たちの手に負えなさそうなら、そのまま引き返してくるしね」
 そういって悪戯っぽく片目をつぶってみせるロイ。
「騎士様。エドとアルのことお願いします!」
 そんな騎士の青年にむかって、ウィンリィは深々と頭を下げた。
「ああ」
「2日ぐらいで一回戻ってくるから、それまで家のことよろしく」
「じゃ、行ってくる」
「気をつけて!!」
 森の中へと入っていく三人が見えなくなるまで、ウィンリィはじっとその場から動かなかった。


 森の中は――静かだった。
 家の周りはいつもと変わりがないような気がしたが、奥に進むにつれ、微妙に何かがおかしい。普段なら聞こえるはずの鳥の声も今はほとんど聞こえない。そのどこか妙な感じに、エドワードとアルフォンスはなにか異変が起きていることを感じた。
「変だね兄さん」
「ああ、なんか変だな」
「どう変なんだい?」
 最後尾を歩いているロイが、訝しげに辺りを見回している兄弟に声をかけた。
「なんていうか……静かすぎるんだよ」
「ふむ……」
 考え込み始めたロイにアルフォンスがたずねる。
「ロイさん。結界の効果がなくなってしまう日付って詳しくわかります?」
「いや。なにせ50年以上前の文献だからね、日付なんかは曖昧なんだ」
「肝心なとこで役に立たないな、その文献」
 エドワードの文句にロイは苦笑しながらあやまった。
「すまないね、君たちの期待に添えなくて」
 そんなやりとりをしながらも、三人は足早に森の中を進んだ。
 いくつかの目印しか書かれていないような地図だったにもかかわらず、エドワードとアルフォンスにはそれで十分だったようだ。
 二人の案内で獣道を通り抜け、迷うことなく森を進む。太陽が山の端にかかるまでに夜営できそうな場所を探して、暗くなる前に薪を拾い集めて火をおこしはじめる。
 その手馴れた様子にロイが感心したように声を上げた。
「すごいな二人とも」
「そりゃ何度もやってると嫌でも手馴れてきますよ」
「二人で二ヶ月ぐらい無人島に放り出されたもんなぁ」
「あれはかなりきつかったよね……」
 しみじみと語るエドワードとアルフォンスの様子に、ロイはなんともいえない顔で、
「……なんだかすごい人だな、君たちの師匠は」
「あはははは……」
 困ったように笑うアルフォンスにもう一つたずねてみる。
「その師匠というのがアルとエドの母親なのかい?」
「違いますよ」
「では、君たちは両親と一緒に暮らしているわけではないのか」
「その、まあ、色々とありまして――」
「アル!」
 横から飛んできた鋭い声にアルフォンスはビクッとなって口をつぐむ。エドワードは弟が黙ったのを確認してからまた夜営の準備に戻っていった。
「すまない。聞いてはいけないことを聞いたようだ」
 申し訳なさそうな顔であやまるロイに、同じように申し訳なさそうな顔で頭を下げてから、アルフォンスも夜営の準備へと戻っていった。


→ It continues.