森の奥に住む魔物
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「それでは約束通り、魔物の話しをしようか」
 ――数分後。
 何とか――魔女不在の――ショックから立ち直ったロイは、ソファに座った三人の顔を見回してから、そう言い出した。

 ――城の古い文献によれば

    『それ』はこの土地に人が住み始める以前からその森に住んでいた。
    『それ』は人々に災いをもたらさないと約束するかわりに、
    年に一人、少女を生贄として要求してきた。
    ある時、王は言った。『それ』を倒せと。
    その言葉に『それ』は怒り狂った。
    国の半分を森に沈め、国中の村や町から少女たちを攫った。
    人々は恐怖に震えた。
    その時。この国にやって来た一人の魔女が王にこう言った。

    「私がその魔物を封じましょう」と――


「それからどうなったの?」
「魔女は森の奥にある遺跡へと魔物を封じることに成功した。しかし――」
「しかし?」
「魔女は自分が死ぬ前にこう言い残したんだ。『私が死んだ後、50年経つと封印の効果がなくなってしまう。それまでに再び魔物を封じろ』とね」
「ま、まさか……今年がその50年後だったりして」
 勘違いであってくれというアルフォンスの願いもむなしく、ロイはあっさりと首を縦に振った。
「そのまさか、だ」
「「あははははははは……」」
 兄弟二人してうつろに笑い出したかと思うと、急に両手で頭を抱えて、
「うわ〜! なんてタイミング悪ぅ……」
「師匠〜! 何で今日出かけたんですか〜!!」
 突然、何もない虚空に向かって八つ当たりをし始めたエドワードとアルフォンスの剣幕に驚いたロイがビクッと身を引いた。しかし、ウィンリィは手馴れたもので、空になっていたロイのカップに紅茶のおかわりを注ぎながら、
「いつものことです。しばらくしたら落ち着きますから」
「………………」


「じゃあ、オレたち師匠の書斎でなんか手がかりになりそうな物がないか調べてみるよ」
「ロイさんはウィンリィと一緒に適当にその辺りでくつろいでて下さい」
 二階にある書斎へと足を向けたエドワードとアルフォンスに、ロイは先ほどと同じ問いを繰り返した。
「二人とも、本当に魔物退治についてくる気なのか?」
「当然!」
「師匠が不在なら、せめて、弟子であるボクたちが少しでも出来ることをやっておきたいんです」
「……わかった」
 言い出したときと同じく少年達の決意は変わらないようで、ロイは仕方なく頷く。
「そうだ。私も調べ物を手伝おうか?」
 それならばと、言い出したロイの申し出は、
「ダメ!」
 即座に、エドワードによって切り捨てられた。
「しかし……」
「師匠、書斎に入られるのすごく嫌がる人なんですよ。ボクらだって師匠が帰ってきたときにめちゃくちゃ怒られるの覚悟の上なのに、その上部外者を部屋に入れたとなると……」
 そこまで言って、二人して真っ青になってガタガタ震えだす。
(そんなに怖い人なのか? ここに住んでいる魔女は)
 そんな兄弟の様子にロイは、それ以上なにも言えなくなってしまった。
「それじゃ」
 そう言って、締め出される格好で書斎の前の廊下に一人取り残されたロイは、他にすることも思いつかずぼんやりと廊下の窓から外をながめていた。
「?」
 ふと、視線に気がついて振り向けば、階段の下からウィンリィが何か聞きたげな視線をこちらに向けている。
「どうした?」
 優しく問いかけると、ウィンリィはしばらく迷ってから階段を登ってきた。
 しばらくの沈黙の後、ウィンリィはおずおずとたずねてきた。
「あ、あの……魔物に攫われた少女って、その後どうなったんですか?」
 言葉の端々から怯えが伝わってくる――魔物の生贄の話を聞いて怖くなったようだ。それもそうだろう。もし魔物が復活してしまえば、自分が攫われてしまう可能性はないとは言い切れないのだ。
「――文献によれば、誰一人として生きて帰ってきたものはいないそうだ」
「そう……ですか」
 目に見えて暗くなった少女にかける言葉も浮かばないまま、時間だけが流れる。
「………………」
「………………」
 その暗い沈黙を破ったのは、書斎の扉が開く音だった。
「見つけたぞ!」
 一冊の薄い本を手に書斎から出てきたエドワードは、まっすぐにロイのもとまで来るとその本を開いてある一点を指差してみせた。
 それは、資料――というか、走り書きのようなもの――だった。神経質そうな文字でびっしりと細かく書き込まれてある。
「ほらここ。師匠も森に魔物が封印されていたことは知ってたみたいだ」
 エドワードに続いて書斎から出てきたアルフォンスが、付近の詳しい地図を手にエドワードの言葉を補足していく。
「まあ、50年間のタイムリミット付だってことまではわかんなかったみたいですけど、封印されている場所については、細かい記述が見つかりました」
 そう言って広げた地図の中ほどを指で指す。
 場所はこの森の奥――なにかの建物跡のようだ。
「ここが……」
 まじまじとその地図を眺めているロイの背中をばしっと叩いて、エドワードがお気楽に言った。
「それじゃ、場所もわかったところでさっそく行くか」


→ It continues.