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――それから数分後。
エドワードとアルフォンスは、ただただ闇雲に東方指令部内を走り回っていた。
詳しい犯行現場の場所をハボックに聞きそびれたということにエドワードたちが気付いたのは、食堂を飛び出してしばらく経ってからだった。
「ねえ兄さん。一回戻ってハボックさんに詳しい話を聞いたほうがいいんじゃない?」
そうアルフォンスが提案したものの、エドワーとはあっさり、
「却下」
「なんで!?」
「だって――ってアル、ストップ!」
急に制止をかけてくるエドワード。アルフォンスがつんのめりそうになりながらも何とか立ち止まって兄のほうを振り返ると、
「どうしたの? 兄さ――」
「しっ!」
唇の前に人差し指を立ててアルフォンスの言葉をさえぎってから、エドワードは扉の開いている資料室のほうをそっと指差した。
そこには、数枚の紙が落ちていた。そして資料室の中にはなにやらごそごそとしている不振な影が――
(犯人かな?)
(わかんない。行ってみるしかないな……行くぞ)
視線をかわして頷くと、エドワードとアルフォンスは慎重な足取りで資料室の扉へと近づいた。
そして、入り口の影からそっと中を覗き込む。
エドワードたちの視界に飛び込んできたものは――
「ん?」
「?」
床一面に散らばった紙(おそらく書類)を、しゃがみこんで拾い集めているフュリー曹長の黒い後頭部だった。
『へっ!?』
――思わず、気の抜けた声がでた。
「どうしたんですか?」
「なにしてんの?」
「いや、資料室に資料を戻しに来たんだけれどね、部屋の中から飛び出してきた何かとぶつかっちゃって――」
『!!』
それを聴いた瞬間。エドワードとアルフォンスの顔色がさっと変わる。
「それってどこ行った!?」
「えっ? 向こうのほうに逃げてったけど……」
噛み付くようにしてたずねてくるエドワードに困惑しながらも、フュリーは廊下の――エドワードたちが来たのとは反対側の――奥を指差した。
「行くぞアル!」
「あ、うん」
はじかれたように駆け出すエドワード。アルフォンスも慌ててエドワードの後を追って廊下を走り出した。
「…………一体、なにがどうしたんだい?」
拾いかけた資料を握り締めて、フュリーはきょとんとその場に立ち尽くした。
しばらくすると――
「うわっ!?」
「なんだ!?」
ガタン!
バサバサッ。
あちこちから、叫び声と物音が聞こえだした。
「盗難事件の犯人かな?」
「捕まえてみればわかる」
全速力で声のする方向にむかって走っていると、
びゅっ。
何か茶色っぽい影が、エドワードの真横を通り過ぎた。
「!?」
後ろをふりむくと、その影はエドワードたちが今きた廊下の角を曲がっていくところだった。
「あれだっ!」
急いでUターンをして追いかけると、影はすごいスピードで逃げ始めた。
「待てっ!」
「止れ!!」
エドワードとアルフォンスに追いかけられたその影は、何度となく廊下の角を曲がり、階段を駆け上って、わずかに扉の開いていた部屋の中へと飛び込む。
「ここか!」
「もう逃がさないぞ!」
バンッ!
勢いよく扉を開け放って中に踏み込んだ二人だったが――わずかに遅かった。
部屋の中はすでにもぬけの殻。
開け放たれた窓から吹き込んでくる風に、カーテンが大きくゆれていた。
「まさか!?」
「外?」
窓の外を見ると、さっきまで追いかけていた犯人とおぼしき影が、茂みの辺りに走り込んでいくのが見えた。
「逃がすか!」
言うが早いか、エドワードは開いている窓から、ばっと身を躍らせる!
赤いコートを風になびかせて落下していくエドワード。アルフォンスはあわてて窓辺に駆け寄った。
「ちょっ、兄さんここ二階だってば!」
急いで窓から頭を出して下を見下ろすと、すたっと地面に着地したエドワードが影を追って走り出したところだった。
「もう、しょうがないなぁ……」
ぶつぶつこぼしながら、エドワードの後を追うべくアルフォンスも窓枠に足をかけた。
さらに数十分の追跡の末――
エドワードとアルフォンスは盗難事件の犯人とおぼしき影を、倉庫と倉庫の間の隙間に追い込むことに成功した。
たしかこの奥は行き止まり――――
「これで犯人を捕まえたも同然だな」
「油断は禁物だよ、兄さん」
倉庫の角を曲がり、慎重に奥へと進む。
そして、その先で二人が見たものは――
「…………なんだコレ?」
……大量のガラクタだった。
「ゴミか? 何でこんなところに?」
ぽかんとするエドワードの隣を通り過ぎ、アルフォンスはそのガラクタの山に近寄った。
「いや、これは…………」
しゃがみこんで、そのガラクタをしばらく眺めてから、ぽつり。
「盗難された物なんじゃないかな?」
「へっ?」
聞き返してくるエドワードに、アルフォンスはガラクタを指差しながら、
「だってほら、タバコでしょ? 新聞、スリッパ、弁当箱にコーヒーカップ……」
偶然にも発見された『盗難品』だったが――食べ物の類は食べ散らかされてまったく残っておらず、その他の品物にいたってはなぜかズタズタのボロボロ。
「なんでこんなところにため込んでるんだ?」
「さあ?」
二人して首をひねっていると、そのガラクタの山の奥に置いてあった古毛布が、ごそりっと動いた。
「っと、忘れてた! 今は考え事をしてる場合じゃなかったんだ」
「どっちみち、この犯人を捕まえて本人に聞いたほうが早い!」
言いながら、エドワードは勢いよくさっきごそごそ動いた古毛布めがけて走り出す。そして、そのまま勢いを落とさずにがばっと古毛布に飛びついた!
「きゃうんっ!」
『きゃうんっ!?』
エドワードが飛びついた古毛布の下からあがった悲鳴(?)に、エドワードとアルフォンスは同時に顔を見合わせた。
「なんだ?」
「なに?」
おっかなびっくり古毛布をめくると――そこにいたのは茶色い毛並みの大型犬が一匹。ふるふるとおびえた瞳でエドワードたちを見つめていた。
「――――と、まあそう言ういうことで、この一連の『私物盗難事件』の犯人は……この犬」
と、なげやりに犬を指差してエドワード。
アルフォンスが手にしているロープの先には、一匹の茶色い大型犬がつながれていた。
「………………」
執務室までムリやり引っ張ってこられたその犬は、じっと黙って自分を見つめてくるロイの冷たい視線に、さっきからふるふるびくびくおびえっぱなし。
「なんだかこの犬。ノラ犬らしいんですけど、誰かがエサをやってるうちにここの敷地内に住みついちゃったみたいで……」
困ったように笑うアルフォンスと、つながれた犬を交互に眺めてロイはあきれた。
「つまり……腹をすかせてエサを求め、建物内に侵入していたのか」
「たぶんそうだと思います……」
「とりあえず、これで『私物盗難事件』の方は解決したわけだけどさ――」
「…………ノラ犬に簡単に侵入をされたという方が問題だな」
「はははっ……」
「はぁ…………」
「………………」
苦笑いを浮かべた、なんとも言えない顔で自分を見つめてくる三人の視線に耐え切れず、犬は居心地悪そうに、くぅ〜ん……と鳴いた。
end