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「近頃よく置いてあった書類が散らかされるのよね……。困ったわ」
事の起こりは、ホークアイ中尉が独り言のように漏らした、何気ない一言だった。
「大佐!」
バンッ!
声とともに大きく開け放たれた執務室の扉。
この部屋の主である闇色の髪の青年は、勢いよく部屋に駆け込んできた蜂蜜色の髪の少年の姿に驚いて黒い瞳をぱちくりとさせて、コーヒーカップを持っていた手の動きを止めた。
「?」
数分前にこの部屋から出て行ったばかりの少年――エドワードと、その彼の後ろについて部屋に入ってきた全身鎧の姿を認めて不思議そうにたずねた。
「どうしたんだい鋼の、そんなに慌てて? それにアルフォンス君まで。何かやり忘れたことでもあったのかい?」
「………………」
アルフォンスと呼ばれた全身鎧は、ロイの問いかけには答えずに黙って扉を閉めると、なぜか気まずそうにエドワードの傍に立った。
「?」
そのアルフォンスの態度に首をかしげながらも、ロイは気を取り直して手にしていたコーヒーをひとくちすする。
すると、
「犯人は大佐だな!」
ぶっ!!
突然、エドワードが何の前ふりもなくそう叫んでビシッ! とロイにむかって人差し指を突きつけた。そのセリフに、ロイは飲んでいたコーヒーを思いっきり吹き出した。
「はぁ!?」
顔中からぼたぼたとコーヒーをしたたらせながら、間の抜けた声で聞き返す。
「だ、大丈夫ですか!? 大佐」
ロイのあまりのリアクションに驚いて声をかけてきたアルフォンスに、手の動きだけで『大丈夫だ』と答えて、ロイは吹き出したコーヒーにむせながらハンカチを取り出すと、顔からしたたるコーヒーをぬぐった。
「げほ、げほっ……戻ってくるなり、いきなり何なんだ鋼の!? 中尉のところに行っていたのではなかったのか?」
その問いに、エドワードはロイの傍まで近寄って、机に手をついてわずかに身を乗り出しながら、
「中尉に聞いたんだけど――最近、よく書類が散らかされるらしいんだ」
「それで?」
話が見えずに先を促すと、エドワードは再びビシッ! とロイの鼻先に指を突きつけた。
「犯人は、大佐だ!」
「なぜそうなる」
エドワードの根拠のない決め付け――というか、それ以下――にロイは思わずあきれた。
「大佐が仕事を嫌がって、腹いせに書類に八つ当たりしてるんだろう!?」
ロイの鼻先に突きつけた指を、さらに前に進ませながらエドワード。
「そんな子供のようなことを、私がするわけがなかろう?」
突きつけてくるエドワードの人差し指をつかんでおろさせながら、
「それに中尉のその言葉は、おそらくここ数週間ほどこの東方司令部の内部を騒がせている事件のことを言ったのだろう」
『事件!?』
意外な話しの展開に、エドワードとアルフォンスの声が見事にハモった。
「ここ最近。色々物がなくなったり、部屋が荒らされるといった事件が何件かあってね」
「犯人は?」
「まだ捕まっていない――というか、レベルの低い盗難事件だからね。
盗まれた物も個人の私物ばかりでたいしたことはないし、とくに被害が大きいわけでもない。そういう理由もあって、誰も本腰を入れて捕まえようとしていない、と言ったほうが正しいな」
その話を聞いた途端。エドワードの金色の瞳がきらりと輝いた――ような気がしたのはアルフォンスの気のせいだろう……たぶん……
(なんか、ヤな予感が……)
「なあ大佐」
「うん?」
「オレが犯人見つけてやろうか?」
うきうきとしながらそう言い出した兄の姿に、アルフォンスは自分の予感が的中したことを知った。
(あああっ! やっぱり……)
うなだれてがっくりと肩を落としたアルフォンスの姿をエドワードの肩越しに見ながら、ロイは苦笑した。
「……どうせ、私が止めても聞いてはくれなさそうだな」
「あたりまえっ」
にっと笑いながら、エドワードはどこからともなくペンと紙を取り出して、
「それじゃあ、大佐のアリバイを聴こうか?」
「……って、やはり私を疑っているのか鋼の? 残念だが、私は犯人ではない。なぜならば――」
『なぜならば!?』
二人、同時に聞き返し、
「私もその事件の被害者だからだ」
『被害者!?』
二人、同時に驚きの声を上げた。
「何か盗まれたんですか?」
「執務室を荒らされたとか?」
「『盗難』のほうの被害だよ。まあ、被害者と言ってもたいしたことはないがね」
「ちなみに何を盗られたんだ?」
そう聞かれて、ロイは一瞬言いにくそうに口ごもって、
「……中身が入ったままだったコーヒーカップを一つ」
「…………本気でたいしたことねーな」
あきれたようなエドワードの態度に、ロイは思わず言い返した。
「だから最初に言っただろう。レベルの低い盗難事件だ、と」
「でも、何件か起こっているってことは……他にも被害者がいるんですね?」
「ああ」
短く答えたロイの言葉を受け、エドワードは意気揚々と部屋を出て行く。
「よーし! さっそく被害者に聞き込みだ! 行くぞアル!」
「あ、待ってよ兄さん」
先頭に立って歩き出す兄の後を追って、アルフォンスも執務室を後にした。
→ It continues.