「?」
溜め込んでいた仕事をどうにか終わらせ、疲れた身体を引きずってやっとのことで自宅までたどりついたロイは、自分の家の玄関先で首をかしげた。
(こんな所に、ドア?)
見慣れた自宅の玄関のドアのすぐわきに、見慣れないドアがもうひとつできていた。
朝、ロイが家を出たときにはなかったモノだ。
(…………?)
しばらく玄関先で考え込んでいたが、ここでいつまでも立ち尽くしていてもしょうがないと気付きその見慣れないドアのノブに手をかけた。
カチャリ。
何の抵抗もなくドアが開く。
どうやら鍵はかかっていなかったらしい。
中を覗き込むと見慣れたトランクがひとつ床に置いてあるのが見えた――エドワードの持ち物だ。
「と、いうことはこのドアは鋼のの仕業か……」
確かエドワードはこの間の電話で、帰ってくるのは明日になりそうだと言っていたように思う。まったく予想していなかった突然の侵入者にロイは嬉しいやら、呆れるやら……
「とりあえず、勝手に人の家の玄関のドアを増やした犯人を捜すとするか」
自分の持っていた荷物を手近なテーブルに置くと、ロイはエドワードを探しにリビングへと足を踏み入れた。
リビング。
キッチン。
書斎と、各部屋のドアを開けて回るが肝心のエドワードの姿はどこにもない。
「ひょっとして、私はからかわれているだけか?」
ありえないとは言い切れない……エドワードはときどき、ロイの予想を上回るような行動をとる。
(ここにいなかったら、あとは……)
そう考えながらロイはベッドルームのドアを開けた。すると、ベッドの布団がこんもりと盛り上がっているのを見つけた。
何かが布団の中にもぐり込んでいるのだ。
ロイはつかつかとベッドに歩み寄ると、少し警戒しながら身長に片手で布団の端をめくり上げた。
「やっぱり……」
そこにいたのは探していたはずのエドワードだった。
赤いコートを着込んだままの格好で、猫のように身体を丸くして眠っている。
「鋼の」
声をかけるが反応はない――完全に熟睡しているようだ。
「起きてくれエドワード」
少しかわいそうだが無理やり起こすことにした。
勝手に(入り口までつくって)家に侵入されたうえ、ベッドを占領されたのではこちらとしても少々困る。
「ん〜〜?」
何度か揺り動かすと寝ぼけた声とともにエドワードが目を開けた。
「たいさぁ〜?」
視界にロイの姿を確認すると、眠たそうに金色の瞳を手の甲でこしこしとをこすりながら起き上がる。そんなエドワードの蜂蜜色の髪を撫でてやりながらロイはベッドの端に腰掛けた。
そして質問。
「鋼の。いったいどうしたんだね? こんな時間に……」
そのロイの問いにエドワードはまだ眠たそうな声で、
「んっと……。こっちについたのが……えーっと一時間ぐらい前…かな? こんな時間だし大佐は家にいるだろうと思って来たけど、いなくて……忍び込んで脅かしてやろうと思って待ってたけどそのうち眠たくなって……」
そこで、大きなあくびをひとつ。
エドワードの説明にロイが呆れた顔で聞き返した。
「それでコートも脱がずに人のベッドで寝ていたのか」
「うん、そう」
たしかロイが東方司令部を出たころにはそろそろ日付が変わろうかという時間だったはずだ。なにも深夜に人の家に忍び込まなくても……まあ、深夜でなくとも人の家に勝手に忍び込むのはどうかと思うが。
「そんなに眠いのなら宿屋に直接行ったほうがよかったのではないのかね?」
そう言うとエドワードは、
「だって大佐に『おかえり』って言いたかったし……」
「そのために勝手にドアまで作って忍び込んだのか!?」
呆れたとばかりのロイの声に、エドワードはぷぅーっと頬を膨らませると、
「いいよ、もういうこと言ったしオレ今から宿に行くから!」
ぷんぷんと拗ねてベッドから降りようとしたところを、ロイの腕に阻まれた。
「せっかく来てくれたのにもう帰るのかね?」
そう言いながら、エドワードの肩を抱き寄せる。
「だって大佐が……」
「エドワード」
不意打ちで名前を呼んで黙らせると、ロイは片手でエドワードの顎をつかんで引き寄せる。そしてそのまま口づけた。
「たい、んっ…」
エドワードが何か言おうとした隙をついてするりと舌を滑り込ませる。
「んっ…んんっ…ふぁっ」
たっぷりと数分間。
エドワードとのキスを存分に味わって、ロイの舌が出ていくころにはエドワードはすっかり立てなくなっていた。
「立てないのか? それなら仕方がないな、今夜はここに泊っていきなさい」
そういって意地悪そうに笑うロイを涙で潤んだ瞳で睨みつけながら、エドワードは一言。
「わかっててやっただろう、このバカ大佐!」
end