注:パラレルです。お嫌いな方は注意してくださいね。
〜1〜
「うわぁぁぁぁ!」
長い長い悲鳴とともに、空から蜂蜜色の髪を三つ編みにした少女が落ちてきた――いや、その声は少女、というより少年のもので……
ひゅ〜。
どすん!
「いたたた……」
空からか落ちてきた少年。エドワード・エルリックは、したたかに地面に打ちつけた腰をさすりながら、ぐるりと辺りを見回す。
そこは深い、深い森の中。
大きな木が何本も生い茂っていて視界が悪く、どっちに行けばここから出られるのかさっぱり見当もつかなかった。
しかたなくその場に立ち上がると、服についた土を払おうと自分の身体を見下ろして――そこでエドワードの動きがぴたりと止まった。
エドワードが着ていたのはいつもの黒い服ではなく、なぜか女物の衣装――そう、エドワードは不思議なことに、ひらひらのフリルがついた丈の長い赤いワンピースに真っ白いフリルつきのエプロンを着ていたのだ。
「げげっ!?」
エドワードが赤いワンピースのスカートのあたりを見下ろしていると、何の前触れもなく空からいきなり大きな人影が落ちてきた。
「うわわわっ!」
ひゅ〜。
すたっ!
エドワードのときとはちがい、両足からすたっと見事に地面に着地したその大きな人影は、エドワードの弟のアルフォンス・エルリックだった。
いまだに赤いワンピースを凝視したまま固まっているエドワードに気がついて側まで近寄ってきたアルフォンスは、思いがけない兄の格好にわずかに目を見張った。
「何だよコレ〜!?」
心底嫌そうに、ひらひらとしたスカートの裾をつまみ上げながら顔をしかめるエドワード。それを見たアルフォンスは、驚きつつも素直に感想を口にした。
「……でも、案外その格好似合うよ兄さん」
「んなコト言われて嬉しいわけねーだろ! 男だぞオレは!!」
大声でいっきにまくし立ててから弟を睨みつけようと後ろを振り返って――そこで初めて気がついた。
「アル……そーゆーおまえこそ。何だその格好?」
ぽかんとして指をさしたその先――全身鎧の上から一体どうやって着たのか、しっかりと燕尾服を着込んだアルフォンスが落ち着かない様子で立っていた。
「いや、そー言われても……ボクにもよくわからないよ。気がついた時にはすでにこーなってたし……」
困ったように頭をかくアルフォンス。
そこに。
「はっはっはっはっ」
唐突に、どこからか笑い声が聞こえてきた。
森の中に響きわたるその笑い声に、エドワードとアルフォンスはびくりと身体をすくませると、あわてて首をめぐらせ辺りをうかがう。
「あっ!」
そして、笑い声の出所らしき一本の木を発見した。
その木の幹のやや中ほどにはくぼみがありそこにはなんと人の顔が! と、思ったらその木自体が着ぐるみだった。
「「………………」」
二人は言葉もなく、呆然とその木の着ぐるみを凝視した。その木ぐるみを着ている人物は誰であろうヒューズ中佐であった。
「よう、どうした?」
「「………………」」
明るく二人に声をかけてくるヒューズとは対照的に、エルリック兄弟は驚きのあまり声もだせずにただただ立ち尽くすばかり。
そんなエルリック兄弟の様子に気がついていないのか、ヒューズは二人にこんなことを言ってきた。
「さっさと行かないと、遅れるぞ?」
「行くってドコへ?」
何とかショックから立ち直ったらしいエドワードが尋ね返すと、ヒューズは着ぐるみの右手が入っているらしい部分でビシッ! とエドワードの真後ろを指し示しながらキッパリと、
「城に決まってるだろう」
「城?」
「城って?」
「道はあっち。ほら、さっさと行った行った」
「え……あ……」
「ほらほら」
ヒューズに言われるままにその枝(?)の指し示すほうへと、二人はしかたなく歩き出した。
お互い口も開かず、黙ったまま、ヒューズが指し示したほうに向かって歩いていたエドワードとアルフォンスだったが、ふいにアルフォンスがその場に足を止めた。
思案げに腕を組んで下を向いている弟に気がついて二、三歩先を歩いていたエドワードが戻ってくる。
「アル、どうした?」
弟のなにやら難しげな様子にエドワードが心配して声をかけたその時。急にアルフォンスが顔を上げるとぽんと両手を打ち合わせた。
「思い出したよ兄さん!」
「なにが!?」
「ほら、昔。こんな様な話の本読まなかった?」
「本?」
「たしか女の子がウサギかなんかを追いかけて、地面に開いた穴に飛び込んで……」
アルフォンスの言葉に、考え込むように額に手を当てていたエドワードだったが不意に思い出した。
「…………あっ!」
「そう、それ!」
顔を見合わせると、人差し指を立てて二人は同時に声をハモらせた。
「「不思議の国のアリス」」
「……なるほどな、じゃあオレの役どころはアリスか?」
嫌そうに顔をしかめるエドワードの赤いワンピースを指差してアルフォンスはさらりと言った。
「そうじゃない? たしか、本のアリスはそんな格好だったと思うよ」
そこまで言ってからふと、気付いたようにアルフォンスは自分自身を指差して、
「……でも、ボクって一体何の役なんだろう?」
「そりゃぁ、本の話でいけば白ウサギだろう?」
腕を組みつつ断言した後に、ちらりとアルフォンスの姿を見てエドワードは自信なさげに付け足した。
「たぶん……」
「…………」
→ It continues.