「38.5℃」
手に持った体温計が指し示す数値をたんたんと告げる。
「アンタいっつもオレにムリすんなとかいうけどな、自分だって十分無理してんだろうが!」
ロイの家に見舞いに来たエドワードは、体温計片手にベッドの脇に置いた椅子に腰を下ろしながらくどくどとベッドに横になっているロイに小言をいいはじめる。
「君は見舞いにきたのかね? それとも説教をしにきたのかね?」
「両方」
キッパリ言われてロイはぐっと返す言葉に詰まった。
「まったく……こんなに風邪こじらすまで仕事すんなっての」
「部下にも同じことを言われたよ」
「あたりまえ」
ぶつぶつ文句を言いながらもエドワードはロイの額にのっている生温くなったタオルを取りかえる。
「メシと薬は?」
「両方ともまだだ」
「なんか食えそう? 腹減ってる?」
「…………まぁ少しぐらいなら」
「ったく……」
エドワードはよいしょと立ち上がると、アルフォンスに持たされた見舞いの品と一緒に持ってきた紙袋を手にキッチンへと消えた。
「?」
ベッドから少し身体を起こしたロイが、首をめぐらせて開いたままのドアの隙間から廊下をうかがうが、ベッドルームからキッチンの様子はさすがにわからない。
なにやらカタカタと音がしていたがしばらくするとそれも聞こえなくなった。そして、
「ほら、メシ。おかゆぐらいなら食えんだろ?」
お盆を片手にエドワードがもどってきた。お盆の上にはおかゆの入った器がほかほかとあたたかな湯気を立てている。
「……鋼のが作ったのか?」
恐々おかゆを指差してロイ。
「ちがうって。宿のおばちゃんに作ってもらったやつを温め直してきただけ」
笑いながらロイの言葉を否定した。
起き上がるのを手伝ってやり、ロイをベッドの上に座らせるとその膝の上におかゆののったお盆をのせる。
「はい」
「……はいといわれても、スプーンをくれないと食べれないが?」
いまだにエドワードが手に握ったままのスプーンを見てロイが困ったようにいうと、エドワードはにやりと笑った。
「だいじょうぶだって」
エドワードはおもむろに手にしたスプーンでおかゆをひとさじ掬う。そして、ふうふう息をかけて少し冷ますと、
「はい大佐。あーん」
「は、鋼の!?」
突然のエドワードの行動に、ロイは熱で赤い顔をさらに赤くさせた。
「ほら、ちゃんと食って。ちゃんと薬飲んで。ちゃんと寝ろ」
ほら、とスプーンをロイの口元に寄せる。
「言っていることはわかるが、なにも鋼のが食べさせてくれなくても……」
「いいからいいから」
「………」
ロイはしばらく躊躇った後――
ぱく。
もぐもぐ。
「うまい?」
「ああ」
やっとおかゆをひとくち食べてくれたロイを嬉しそうな顔で眺めてから、エドワードはまたスプーンでおかゆをひとさじ掬う。
「鋼の! 後は自分で食べるから!」
「だめ」
止めようとしたロイを一蹴してから、エドワードはまた少し冷ましたおかゆをロイの口元に運ぶ。
「ほら大佐、口あけて」
にっこり言われてロイはしかたなく口をあけた。
「ほかに何かして欲しいこととかある?」
食事を終え、薬を飲んでからまたベッドに横になったロイに声をかける。
「……特に思いつかないな」
声のトーンが少し落ちてきた。
眠いのかな? そう思ったエドワードはベッドの脇に置いてあった椅子を引き寄せると、ロイの枕元に椅子を置いて静かに座った。
「鋼の? 帰らないのかい?」
眠いのかしきりに瞬きを繰り返しながらロイはエドワードを見上げてそうたずねてくる。
「うん。もう少しここにいる。病気のときってさなんか心細くなんない?」
「鋼の……」
「ちゃんとここにいてやるから、少し寝ろよ大佐」
そういってエドワードは優しくロイの頭をなでてやる。
「エドワード……」
「おやすみ、大佐」
ロイが眠ってしまった後も、エドワードはしばらくロイの頭をなで続けていた。
end