〜1〜
執務室のテーブルの上に置かれたその荷物に一番はじめに気がついたのは、ロイ・マスタング大佐だった。
東方司令部の執務室に入ってきた黒髪の青年は、先ほど部屋から出たときにはなかった物を見つけて思わず足を止めた。
「なんだこの荷物は?」
20pほどの大きさの白い正方形の箱。それがテーブルの上にちょこんと置かれている。その箱の上面の目立つところにメモが一枚貼り付けてあり、そのメモには『大佐宛に荷物が届いています』とフュリー曹長の字らしき几帳面な文字でそう書かれてあった。
「私宛? 誰からだ?」
首を傾げながら、ロイは白い箱の表面をざっと見た。しかし、箱には伝票もついてなければ、表示もない。フュリーのメモ以外は何もない、ただの白い箱だった。慎重に手にとってみると荷物は大きさの割には重く、ふるとカタカタと音がした。
「いつまでも箱を眺めていても仕方がないか……」
ロイは仕方なくその――不審な――箱を開けてみることにした。
箱の中から出てきたのは――きれいに白いリボンがかけられた、コルク栓のついたガラスの瓶がひとつ。
透明なガラスから透けて見えるその瓶の中身は、
「…………チョコレート?」
中には、ハート型の一口大のチョコレートが瓶の半分ぐらいまで詰まっていた。
「一体なんなんだこれは? メッセージカードの類もついていないし……」
ロイが腕を組んで首をひねっていると、そこに――
コンコン。
「大佐いる?」
「こんにちは、大佐」
明るく挨拶しながら部屋に入ってきたのは、蜂蜜色の髪を三つ編みにした小柄な少年と、大人よりも大きな身体の全身鎧の二人だった。
エドワード・エルリックと、アルフォンス・エルリックである。
二人はテーブルの前で難しそうな顔で腕を組んでいるロイと、その前に置かれたリボンのかかったガラス瓶に目をとめて、
「なにそれ?」
「プレゼントですか?」
「そうと言えばそうなのだが……ひょっとして鋼のから、というわけでもあるまい?」
ロイはテーブルのガラス瓶を指差してエドワードにたずねる。
「オレはそんなの大佐に送った覚えはないぞ? アルは?」
隣に立っている弟にも聞くが、アルフォンスのほうも知らないらしくふるふると首を横に振った。
「ボクも知らないです」
「では一体誰からだ? ここの人間ならば直接私に手渡しすれば済むことだろうし……外部の……いや、しかしそれならば……取り次ぐというのも……」
ぶつぶつとつぶやきながら悩み始めるロイ。エドワードとアルフォンスもロイにつられて一緒に考え込み始めた。
「誰からの荷物かわかんないのか?」
「今日はバレンタインでも、クリスマスでもないし……あっ! ひょっとして大佐の誕生日だとか!?」
「うーん、ちがうと思うけど……」
「誕生日ではないよ」
アルフォンスの言葉に答えながらロイはポン、とコルク栓をあけて中身の匂いを嗅いでみた。
「…………別段変わったところのない、ただのチョコレートのように思うが」
自信なさげにつぶやくロイ。
「どれ?」
エドワードもロイの持っている瓶に鼻を近づけてくんくんと匂いを嗅いでみる。
「大丈夫っぽいけど?」
「う〜む」
「思い切ってひとつ食べてみます?」
「いつまでも悩んでいても仕方がないし、それしかないか……」
アルフォンスの提案に、ロイはしぶしぶ瓶の中からチョコレートを一つ取り出して――食べてみた。
「どう?」
「大丈夫ですか?」
「……問題はなさそうだが……」
やれやれ気にしすぎか……と三人がほっと胸を撫で下ろしたのも、つかの間。
しばらくすると――
「た、大佐!?」
最初にロイの変化に気がついたのはアルフォンスだった。
机に向かって仕事を再開していたロイにむかって、おそるおそる声をかける。
「ん?」
「どうしたアル?」
アルフォンスの上げた声になにげなくロイの方を見たエドワードも、途端にびっくりした顔になって、
「大佐! なんかちっさくなってるぞ!?」
「なんだって!?」
見ている間にも、ロイの身体はみるみる小さくなっていく――身長が低くなり、ちょうどのサイズだった軍服も今やだぶだぶ。椅子に座っていたのだが、だんだん床に足がつかなくなり始めた。
「た、大佐。なんか子供になっちゃってますよ!?」
「!!」
ロイは、ペンを放り出して椅子から飛び降りると、床の上に立ち、愕然と自分の身体を見下ろした。
「………………」
ともすればずり落ちてきそうになるズボンを引っ張り上げながら、うつむいて黙り込んでしまったロイを心配して、エドワードがあわててロイのそばに駆け寄る。
「大佐、大丈夫か!? どっか苦しいとか?」
突然目の前で起こったロイの変化に、おろおろと心配するエドワード――どうでもいいが、エドワードのロイに対する対応が、すっかり子供相手状態になってしまっている……
「…………くっ」
ロイがしぼりだすような声でうめいた。
「く?」
エドワードが心配そうに聞き返すと、
「屈辱だ! 鋼のよりも背が小さくなるなんて!!」
「なんだとコラっ! ケンカ売ってんのか!」
「まあまあ兄さん。落ち着いてよ」
きーっと怒って子供化したロイにつかみかかっていこうとするエドワードを後ろから羽交い絞めにして止めながら、アルフォンスは困ったようにため息をついた。
→ It continues.