運命の出会いなんて所詮そんなもの
〜3〜

 ――あの舞踏会の夜から数日たったある日。

「ねえ、エドってば聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
 その日、エドワードはウィンリィと街に買出しに来ていた。
 いつも多くの買い物客でごった返す街の中心部にある広場。街角で立ち話をしている人々の話題は、二〜三日前から始まった『王子の探し人』のことで持ちきりだった。
 たくさんの人が行き交う通りを歩きながら、さっきからウィンリィの話題もその『王子の探し人』のことばかり。
 後ろ向きに器用に歩きながら、少し遅れて後ろをついてくるエドワードに向かって、うきうきとしゃべり続ける。
「王子様が探している人ってどんな人なんだろうね? 手がかりはその靴と名前だけ。その靴を持って王子様はその人を探しに街にやって来るらしいわ!」
 ウィンリィは両手を胸の前に組んで、水色の瞳をきらきらさせながらすっかり夢見る乙女モードに入っていた。
「いいわ〜ロマンスね〜。あたし断然、王子様を応援しちゃう!」
 ほぅっと吐息をもらし、うっとりとした瞳でウィンリィ。
 エドワードはさっきから何度も聞かされたその話題に閉口しながら、おずおずと彼女に声をかけた。
「ウィンリィ。それはいいから、そろそろ買いものに……」
 ガラガラガラ……
 そのエドワードの声をかき消すように、一台の馬車が二人のすぐ横を走り抜けた。
 しばらく通りを行ったところで停止すると、ガラスの靴を持った一人の兵士が馬車の中から降りてきた。それに続いてロイの姿も……
 ざわざわっ。
 広場にいあわせた大勢の市民が、突然の王子の登場に騒然となる。
(げっ! まずい)
 こんな街中に突然現れたロイを見て、エドワードは思わずぎくりと肩を震わせた。ウィンリィがいる手前。表面上は平静を装っているものの、エドワードは内心だらだらと冷汗をかきながら、ロイに気付かれないことを心の中で祈った――顔が知られているだけに必死だ。
(どうか、こんな街中で見つかって、声なんてかけられませんように……)
 王子に話しかけられでもしたら、あの日のことをウィンリィにどう説明すればいいのやら……魔法使い見習いに泣いて頼まれました。なんて素直に言ったところで、はたして信じてもらえるだろうか?
 一瞬、ちらりと脳裏をよぎったその全身鎧の魔法使い見習いの姿に、思わず顔をしかめる。
(アルの口車に乗せられるんじゃなかったな……めんどくさいなぁ、もう)
 八つ当たりめいたことを考えながら、必死に『王子様御一行』からこそこそと顔をそむけるエドワード。隣でウィンリィが自分の行動を見てきょとんとしているが、とりあえず無視しておく。
 ざわざわっ。
 いまだに騒然としている市民には目もくれず、兵士は淡々と懐から書面を取り出すと、それを広げ読み上げようとして――
「待て」
 すっと片手を上げて、ロイが兵士にストップをかけた。
 そして、人ごみの中の一点に視線を固定すると――まっすぐこっちに向かってくるではないか!
(オレか? ひょっとして見つかった!?)
 そう判断した途端――エドワードはだっとその場から逃げ出すようにして走り出した。
「えっ? ちょっとどこ行くのよ!?」
 後ろから驚いたようなウィンリィの声が聞こえたが、それを無視してエドワードは近くの人ごみの中に飛び込んだ。
 そのまま人の波にまぎれて広場から出ようとして――失敗した。王子様を一目見ようと集まった野次馬たちに阻まれて、それ以上身動きできなくなってしまったのだ。
(くそっ!)
 完全に立ち止まってしまっている周りの人々が邪魔で前に進めない。心の中で舌打ちしながらエドワードは辺りを見回した。
(とにかくここから逃げよう!)
 隠れられそうな場所を探すがエドワードがまごまごしている間にも、ロイはどんどんこっちに近づいてくる。
 ロイが近づくと周りの人々はさっと道をあけた。そして難なくエドワードの側までたどり着くと――
「エド〜! 会いたかったよ!」
「!?」
 ロイはいきなり、がばっとエドワードを抱きしめた。
「うわわっ!? なんだいきなり!?」
 当然だが――そのロイのいきなりの行動にエドワードはあわてふためいた。必死にロイの腕の中から逃げようとばたばたと暴れる。
「は、はなせよ! なんなんだアンタは!?」
 エドワードのその言葉にロイはわずかに眉をしかめた。抱きしめていた腕の力を緩めて少年を解放すると、その金色の瞳をじっと覗き込みながら、
「この間ちゃんと名乗っただろう? 私の名はロイだ」
 その真剣な黒い瞳に引き寄せられるようにして、エドワードの唇がかすかに動く。
「ロ…イ……?」
 聞き逃しそうなほど小さな声は、しかし、ちゃんとロイの耳に届いたらしい。
 ロイは満足げにうなずくと、状況が理解できずに、今だにぼんやりとしたままのエドワードの右手を手の甲が上を向くように取り――そっと軽く口づけた。
「!!」
 そんな恥ずかしいロイの行動に、途端に耳まで真っ赤になるエドワード。
 顔を赤くしておたおたとうろたえる少年を愛しげに見つめてから、ロイはエドワードの肩を優しく抱き寄せた。
「さあ、行こうか」
「行くってどこへ?」
 訝しげな顔でロイの顔を見上げてくるエドワードに微笑みかけると、ロイはその小柄な身体をひょいと肩の上にかつぎ上げた。
「うわっ! なにしやがるおろせ!」
 驚いて肩の上でばたばたと暴れだしたエドワードを、落ちないようにしっかりと抱えなおしてから、ロイはさっき自分が乗ってきた馬車へとすたすたと歩き出した。
「つもる話は城に帰ってからにしよう」
「城!?」
「結婚式の日取りも決めなくてはね」
「ちよっと待て! 結婚式ってなんだ!? オレ男だぞっ!」
「そうだ。ご家族の方に招待状を送らないとな」
 必死に文句を言い続けるエドワードの話しをきれいに無視して、ロイは少年を馬車に乗せ、さっさと自分も乗り込むと城へむかって馬車を走らせた――
「おいこらっ! オレの話を聞け!」
「ははははっ」

◆◆◆


 ――そして二人はお城で末永く幸せに暮らしましたとさ。
「ちょと待てーっ! それでいいのかこの話!?」
「いいじゃないかエド」
「ちょっ、こら! はなせー!!」
 おしまい。


end