注:パラレルです。お嫌いな方は注意してくださいね。
〜1〜
とある街にエドワードという少年がすんでいました。
少年は両親と一緒に平和に暮らしていましたが、ある年の冬。たちの悪いはやり病にかかってしまった少年の母親は看病のかいもなく、天国へと旅立っていってしまいました。
少年の父親は忙しい人だったので、家にはほとんど帰ってきません。エドワードが一人で寂しい思いをしていてはかわいそうだと、父親は再婚を決意しました。
そして父親の再婚相手としてやってきたのは、なぜか年の食ったばばぁ――
「なんだって!!」
ゴホン、ゴホン……そ、その……昔はさぞ美しかったであろう女性――
「なんかその言い回しが気になるね……」
気にしないで下さい。……ええっと気を取り直して。
父親の再婚相手として少年の家にやってきたのは、昔はさぞ美しかったであろう女性と、彼女の孫娘でした。
これはその少年のおはなし――――
◆◆◆
「エド、ご飯!」
一階のキッチンからひょこっと顔だけ覗かせて、二階にある書斎に向かってそう声をかけたのは水色の瞳に、金色の長い髪を後頭部の高い位置でくくった少女だった。
彼女の名前はウィンリィ。エドワードの父親の再婚相手としてやってきた女性の孫娘である。
いっぽう二階の書斎のでは、金色の瞳に蜂蜜色の長い髪を三つ編みにした小柄な少年が、部屋の奥にずらりとならんだ書棚と、その手前に高く積み上げた本の間に腰をおろして半ば本に埋もれるようにして黙々と本を読んでいた。
歳はウィンリィと同じぐらいだろうか? 『エド』と呼ばれた少年――エドワードはウィンリィの声などまったく耳に入っていないのか、三つ編みにした蜂蜜色の髪をうるさそうに手で払いながら、たった今読み終えたばかりの本を元の場所に戻すと、床の上に積み上げていた次の本を手にとって表紙を開くと、また読み始めてしまった。
「エド、ご飯だって言ってるでしょ! 聞いてるの!?」
「……ん〜わかった……」
少女の再三の呼びかけに対して、エドワードがやっと反応らしい反応を見せた――と言っても、わずかに紙面から顔を上げておざなりに返事しただけだが――そしてまた手元の本へと視線を戻すとさっさと次のページをめくる。
「もう……ほんとに聞こえてるのかしら?」
やれやれと肩をすくめるとウィンリィはしかたなくキッチンに足を向ける。
「ほっときな」
先にキッチンのテーブルについていた父親の再婚相手の女性――ピナコは孫娘のウィンリィにむかってそう言うと、さっさと昼食を食べ始めた。
――どのぐらい経っただろうか。
本を読むのに夢中になっていたエドワードがふと何気なく窓の外を見ると、すでに日も暮れて星が瞬き始めていた。昇りはじめたまるい月が、ほんのりと明るい光を放っている。
その月を背に、街を見下ろすようにして大きな城が建っている。この辺り一帯を治める国王の住む居城だ。
窓という窓すべてに明かりのついた城と、どこか浮かれた雰囲気の漂う街の夜景を眺めながらエドワードはぽつりとつぶやいた。
「そういえば腹へったな〜」
ぐう〜っ。と鳴ったお腹を押さえて、
「今、何時だ?」
ウィンリィが遅めの昼食を持ってきてくれてからだいぶん時間がたっている気がする。
立ち上がって読み終わった本を書棚に戻すついでに出したままにしていた本も片付けると、凝り固まってしまった肩をコキコキと鳴らした。エドワードが両手を前に伸ばしてうーんと伸びをしていると、窓の方から……
こん、こつん。かたん。
妙な音が聞こえた。
(なんだ? 泥棒か?)
慎重に音のした窓辺に歩み寄ってそっと窓の外をうかがう。
窓の外には先ほど見たときと同じ、星が輝く夜空に浮かぶまるい月とその手前に――大きな人影?
「?」
月の光の中に浮かび上がったのは、鈍く輝く金属の光沢。大の大人よりも大きなその影は――なんと全身鎧だった。それが突然窓の外にぬっと立っていたのだ!
「どわっ!? ここ二階だぞ!」
驚いたエドワードが、あわてて窓を開けた。顔を出して外を覗き込んで……
「へっ!?」
思わず気の抜けた声をもらした。
落ち着いて確認してみれば、その全身鎧はべつに空中に浮いているわけでもなんでもなかった――屋根の縁にどうにかこうにか立っていただけらしい。
「…………」
ぽかんと口を開けたまま固まっているエドワードに気がついたのか、その全身鎧は外見に似合わない少年のような声でおずおずと話しかけてきた。
「あの……すいません。ちょっといいですか?」
話しかけられて我に返ったエドワードは、ちょっと考え込んでから、
「……泥棒とか強盗じゃないんならかまわないから中に入ってくれ。そのままじゃ屋根がぬける」
窓を大きく開けて、その怪しいんだかマヌケなんだかよくわからない全身鎧をとりあえず部屋の中に招き入れた。
「お邪魔します」
エドワードの予想に反して、意外と礼儀正しく頭を下げて部屋に入ってきた全身鎧――アルフォンスという名前らしい――は、大きな鎧の身体を小さくちぢこませるようにして床の上に正座すると、そわそわと落ち着きなく部屋の中を見回した。
アルフォンスと同じように床の上に腰を下ろして、エドワードはとりあえず彼の話を聞くことにした。
「で? 一体なんでアンタはこんな時間に人様の家の屋根の上に突っ立ってたんだ? ひょっとしてそういう趣味のヤツなのか?」
「ちがいますよっ!!」
エドワードの指摘に、アルフォンスは力いっぱい言い返した。
「あっ、すいません…………その、ちょっと修行で……」
はっと我に返って浮き上がりかけた腰を床の上に戻すと、アルフォンスは言葉を濁した。
「屋根の上に立ってるのが?」
「ちがいます!! って、あっ……」
また、力いっぱい言い返してしまい、あわてて口をつぐむ。
「えっと……あのですね……」
「?」
もごもごと口ごもっていたアルフォンスだったが、しばらくして意を決したように顔を上げた。ひたりとエドワードの金色の瞳を見つめて――
「あのっ、舞踏会に行きませんか?」
「はあ?」
あまりにもこの場に不似合いな、突拍子のない話にエドワードは思わず間の抜けた声を上げた。だがエドワードのそんなリアクションを無視して、アルフォンスはどんどん話を続けてきた。
「知ってます? 今夜、お城で舞踏会が開かれるんですよ」
「ああ、その話ならオレも聞いたぞ。王子の花嫁探しが目的だとか言うやつだろ?」
「そうそう、そうなんですよ」
ウィンリィが昼食を持ってきてくれた時、うきうきと嬉しそうにそんな話をしていたのを頭の片隅でわずかに覚えている。
城や、街全体が浮れた雰囲気になっているのも、おおかたそのイベントのせいだろう。
(女ってヤツは、どうしてそういうのが好きなんだろうな……)
ウィンリィの話を思い出してぼんやりしていると、アルフォンスは真面目な顔で少年にこう言った。
「どうです、行きませんか?」
「? 『行きませんか?』って、オレ男だぞ? いったって意味ねーよ。嫁さん探しだろ? それ」
エドワードの答えにアルフォンスは、うっとつまって、
「やっぱり……そうですよね」
「何でお前が舞踏会にオレをいかしたがってるのかが、わかんねーけど」
「だから、修行なんですってば!」
「なんの?」
きょとんと聞き返すエドワードに、
「こう見えてもボク、魔法使い見習いなんです」
ちょっと自慢げに胸を張るアルフォンス。
「? で?」
まったく話が見えない。
とりあえず話の先を促すと、またアルフォンスが口ごもりはじめた。
「いや、その……師匠に言われたんです。魔法で舞踏会に行きたい人の手助けをして来いと……」
「だったら、他の女の子のところでも行けば?」
「それが、もう10人ぐらいに言ってみたたんですけど……みんな行く気がないか、自分で行くからいいと断られて〜」
「わわっ!?」
アルフォンスが泣きながらエドワードにすがりついてきた。
身体が大きいだけに勢いよくがばっと抱きつかれた時にはちょっと怖かったが、しかたがない。エドワードはあきらめてそのまま彼の好きにさせた。
「お願いですボクを助けると思って〜」
「うーん」
アルフォンスにしがみつかれたまま、エドワードは腕を組んで考え込んだ。
人助けは別にいいとして、自分が城になど行ったところで仕方がない……
渋る少年にアルフォンスは、
「パーティーだからおいしいものがたくさん食べれますよ!」
「いや、オレはべつに……」
「お城の中だって見学できますよ。一般の人がめったに入れるような場所じゃないんですよ?」
そのアルフォンスの言葉にエドワードの耳がぴくりと動いた。
(そういえば、あの城って蔵書がたくさんあるって前にどこかで聞いたことがあったな……)
そこまで一般に開放していなくても、一度城の中に入ってしまえばこっちのもの。こっそり忍び込んでちょっと中を見せてもらうぐらいは……
エドワードは頭の中ですばやく計算して――おもむろにアルフォンスの肩をぽむっと叩いた。
「わかった。君に協力しようじゃないか」
「えっ? 舞踏会に行ってもらえるんですか?」
「ああ」
すがりつくようにエドワードを見つめるアルフォンスに、エドワードはにやりと笑いながら首を縦にふった。
→ It continues.