寒い日には……

「鋼の……」
 耳元で、名前を呼ばれる。
「……んー……むにゃむにゃ」
 心地よいまどろみの中で、ぼんやりと自分を呼ぶ声を聞きながら、エドワードは頬に感じる暖かさに、すり、と無意識に顔をすりよせて、手に触れる布地をにぎにぎと握り締めた。
「鋼の、いい加減起きてくれないか」
 今度は、もう少し強い口調で名前を呼ばれる。
「うー……、なに……?」
 その声――ロイの声に、エドワードの思考がゆっくりと浮上しはじめる。
 まだ眠い目をこしこしとこすりつつ、ぼんやりと目をあけると……
「うわっ?!」
 ロイの端整な顔がドアップで目に飛び込んできた。
「人の顔を見るなり、なんて声を出すんだ君は」
 不満げに言いながら、ロイはエドワードの顔を覗きこんでいた上半身を元に戻した。
「だ、だって、いきなり大佐の顔が目の前にあるんだもん」
「それは悪かった。しかし、元はといえば鋼ののほうに原因があるんだぞ」
 そういいながら、ちょいちょいと自分の膝の上を指差す。
「あっ……」
 そこまで言われて、エドワードは今の自分の体勢を思い出した。――それから、どこにいるのかも。
「だって……外が寒かったから……」
 もごもごと口ごもるエドワードにロイは呆れたように、
「寒かったからといって、部屋に入ってくるなり人の懐にもぐりこむことはないだろう?」
「ううっ……」
「しかも、その体勢のまま寝てしまうし……」
「ごめんて」
 部屋にやってくるなり、エドワードは椅子に座っているロイの膝の上にあがりこんで、上着の中に半分顔を突っ込むようにして丸まると――そのまますやすやと寝息を立て始めてしまった。そんなエドワードを起こすに起こせず、ロイはしかたなく仕事を中断するとそのままの体勢で今までじっとしていたのだ。
「また徹夜か?」
 心配げに自分の頬に触れてくる指先に、くすぐったそうに首をすくめて、
「それもあるけど……なんかあったかくってほっとしたら、ついつい眠たくなっちゃってさ」
 言いながらテレたように笑う。
「あ、ごめん。ずっとのかってたら重いよな?」
 はた、と気がついて慌ててロイの膝の上から身体をどけようとしたエドワードに、
「いや、かまわない。それよりそんなに寒いのなら中尉に頼んでなにか温かい飲み物でも入れてきてもらうか?」
 そのロイの提案に、エドワードはふるふると首を横に振った。
「もう大丈夫。大佐のおかげであったかくなったから」
「……人で暖を取らないでくれ」
「いいじゃん。減るもんでもなし」
 笑いながら、エドワードはぴょん、とロイの膝の上から飛び降りた。
 そのまま部屋の入り口に向かって歩き出したエドワードを見て、ロイは半眼になりながらたずねた。
「君は一体何をしにきたんだ?」
「あったまりに」
 エドワードに即答されて、ロイは思わず言葉に詰まる。
「……そうか、あったまりにきただけか……」
 なんともいえない複雑そうな顔で、ぶつぶつとそうつぶやく。
 こころもち肩を落としつつ、中断していた仕事を再開しようとごそごそと机の上の書類に手を伸ばすロイの様子をなにげなく見ていたエドワードが、小声でなにごとかつぶやいた。
 こちらにもどってくる気配を感じて、ロイは書類に目を向けたまま、
「どうした鋼の。なにか忘れ物でもしたのか?」
「うん。忘れ物」
 エドワードの声は、ロイの予想に反してかなり近くから聞こえた。
「?」
 すぐ真上から降ってきた声に、書類から顔を上げたロイの頬になにかやわらかいものが押し当てられる。それがエドワードの唇だと気がつくまでに、ロイは瞬き一回分ほどの時を要した。
 驚きのあまり、持っていた書類をばさりと取り落とす。
「鋼の?!」
 離れていくエドワードの唇を追うような形で振り返れば、にっと笑った金色の瞳と目があった。
「あったまらせてもらったお礼♪」
 そう言いながら、エドワードはいたずらっぽく片目をつぶった。


end