オレが大佐で、大佐がオレ?!
〈2〉

「…………」
 ホークアイの手によって容赦なく机の上に積み上げられていく書類の山を見上げ、エドワードの姿をしたロイはこっそりとため息をついた。


 昨日、不慮の(?)事故でエドワードとロイの身体と中身が入れ替わってしまったのだ。
 事故の後。のんきに仕事の続きなど出来る状態ではないロイと、パニックを起こしたアルフォンスと、資料どころではなくなったエドワードは早々に東方司令部を後にした。
 エドワードの姿のロイは自宅へ帰り、ロイの姿をしたエドワードはアルフォンスとともに宿屋へとむかった。


 そして……一夜明けてもロイのほうにはなんら変化は見られなかった。
(鋼のの方はどうなったのか……)
 早めに解決しなければ……いつまでもこのままではいられない。
 なにせ自分の身体ではなく、エドワードの身体なのだ。
 これを言うとエドワードに怒られそうだが、背の高さからなにからまったく違うのでどうにも勝手が悪い。
 いつもならちょうどいいサイズの執務室の机や椅子も、今は心なしか大きい気がする。
 ロイがぼんやりと考え事をしている間にも、ホークアイは机の上に書類の束を積み上げる作業を続行していた。
「中尉。少しはこう……配慮というか、心づかいというか……そういうものがあってもいいと思うのだが……」
 ホークアイのほうをうかがいながら言ってみたものの、ホークアイにキッと冷たい目で一瞥されるとその声はだんだんしりつぼみになっていく。最後には聞き取れないほどになってしまった。
「大佐、配慮は昨日十分にしました。身体はエドワード君のままですが中身は大佐本人です。室内での仕事でしたら支障はないと思われますので、本日の仕事はきちんとしていただきます」
「……はい」
 冷たく淡々と言われてロイはしかたなく仕事を開始した。
 あの後、やむなく仕事を中断してしまったので書類が滞っているのはわかる。
 ホークアイの言うことももっともだ。
 だが……
 こんな時ぐらい見逃して欲しいと思ってしまうロイなのであった。

◆◆◆


 一方、ロイの姿をしたエドワードは……
 あの後、軍服からロイの私服に着替えたエドワードは、アルフォンスと一緒に宿屋に帰った。
「とにかく今夜一晩ゆっくりと寝て、それから考えようよ兄さん」
 宿屋の部屋に着くなり早々にアルフォンスの手によってベッドに放り込まれてしまった。先ほどのパニックから立ち直りきっていない弟に、エドワードの方もイヤとは言えず大人しく言うことを聞くことにした。
 ベッドにもぐりこんだエドワードがちらりと弟の方を見れば、アルフォンスは壁に向かってうつむき、なにやら小声でぶつぶつと呟いていた。
 そっと耳をすませてみると……
「……これは夢だ。タチの悪い夢なんだよ……そうだよ。きっと明日になればみんな元どおりに……ブツブツ」
(こ、怖ぇぞアル……)
 イッちゃってる弟の姿に、思わず涙する兄。


 ―――そして。
「………戻ってない」
「あははは。やっぱムリか」
 アルフォンスの願いもむなしく、朝起きたエドワードはやはりロイの身体のままだった。
「そんな……」
 アルフォンスの落胆はかなり大きい。
 落ち込んで床にへたり込んでいるアルフォンスを眺めつつエドワードは困ったように片手で黒髪をがしがしと掻いた。指の間から零れ落ちていく短い黒髪にわずかに顔をしかめる。
(そうだよな、そういえば大佐の身体だもんな)
 そこまで考えて、ふと気がついた。
 おもむろにベッドから降りると室内を歩き回る。
「……どうしよう兄さん。どうしたらいいと思う?」
 やっと思考のループから抜け出したらしいアルフォンスがエドワードのほうを振り返って……言葉につまった。
「わーすげー。こんな高いとこまで手が届くんだー」
 エドワードはなにやら楽しげにロイの身体で遊んでいた。
「兄さん……」
「へーっ窓の外の景色も見え方がちがうな。さすがに背の高さが違うもんなー」
 普段の自分と違う点を見つけては大はしゃぎのエドワード。
(兄さん。こんな時に……)
 のんきな兄の姿に、思わず涙する弟。


「そういえば、大佐の方はどうなったのかな?」
 ひとしきりロイの身体で遊んだ後、エドワードが思い出したようにそんな事を口にした。
「ここでじっとしててもしょうがないしね。大佐のとこに行ってみようか、兄さん」
「そうだな」
 宿屋から出てエドワードとともに東方司令部に向かいながら、アルフォンスは真剣に今後のことを心配していた。
 そんな弟の心配をよそにエドワードはといえば、私服姿のロイの身体でまだ遊んでいた。
「背が高いとやっぱ感じが違うよなー。ん?」
 エドワードが物珍しそうにきょろきょろと辺りを眺めていると、見回り中らしいハボックと偶然出くわした。
「大佐?! なんでこんなところで仕事サボって……って、しかも私服じゃないですか!」
 普通、こんな時間にこんな所にいるはずもないロイを見つけて、驚いたハボックがエドワードのそばに駆け寄ってきた。
 そんなハボックを見てエドワードはニヤリと笑うと、
「大佐はちゃんと仕事してると思うよ」
「え?」
 ロイの声、ロイの姿でそう言われて意味がわからずハボックはぽかんとしてその顔を見返した。それを見ておかしそうに笑うエドワード。
「ハボック少尉もちゃんと仕事しろよ」
 それだけ言い残すと、エドワードはそのままのんびりと歩き出した。
「大佐、なんかおかしいぞ? 何かあったのか?」
 呆然とその背中を見送ってからハボックは訝しげにアルフォンスを振り返った。
「ええまあ、色々と……」
 ハボックの質問に、アルフォンスは困ったように曖昧にうなづいた。


→ It continues.