狸寝入りと悪戯心

「大佐いるか、って……大佐?」
 ノックもせず無遠慮に執務室のドアを開けたエドワードは、思いがけない光景に目を丸くした。
 書類が山と積まれた机のむこう。ロイが椅子に深く腰掛けている姿勢のままで目を閉じていた。
 エドワードの声にもまったく反応しない。
「……もしかして寝てんのか? 居眠りか? マジで?!」
 あまりにめずらしい光景に、エドワードは机を回りこんでロイの座っている椅子の横までくると持ってきた報告書をてきとうに机の上に置いて、その寝顔をまじまじと眺めた。
「ほんとに寝てる……のか?」
 ロイの顔の前で手をひらひらとふってみせるが、反応はない。
 片手で軽くロイの頬に触れてみるが、これも反応なし。
 ふと、悪戯心が芽生えた。
 にまっ。
 エドワードは声を出さずににんまりと笑うと、ロイの頬に片手を添えたままちょっと首を傾けた。そしてそのまま静かに顔を近づけて……
「なにをしている、鋼の?」
 声とともにロイの頬に添えていた手をぎゅっと握られた。
「うわっ! た、大佐?!」
 びっくりしたエドワードが慌てて身体を離そうとしたが、しっかりと手を握られたままなのでそれ以上離れることができない。
「アンタ。いつから起きてたんだよ?」
「最初からだ」
「なんだ狸寝入りかよ!」
「失礼な。目が疲れたので休ませていただけだ」
 意地悪くにやりと笑うロイ。エドワードは話をしている隙につかまれた手を取り戻そうと必死にもがくが、しっかりとつかまれているのでそう簡単には振りほどけない。
「そうそう鋼の。さっきの続きはしてくれないのかい?」
「さっきの続き?」
 そのロイの言葉に、エドワードはもがくのをいったん中止してロイの顔をきょとんと見返した。
「さっきの続きってなんだよ?」
「おはようのキス」
「なっ!」
 エドワードの顔がみるみる赤くなった。
「そんなんじゃねー!!」
 耳まで真っ赤になりながらロイの耳の近くて思いっきり叫ぶ。そのエドワードの大声に少し眉をしかめながら、ロイはさらに意地悪く聞き返した。
「じゃあさっきのは何だったのかな?」
「そ、それは……その……」
 案の定、答えに詰まってしまう。
 口の中でなにやらもごもご言いながら頭の中で必死に言い訳を探している。そんなエドワードの片手をしっかりつかんだままふふっと笑うとロイは、
「では、私から君にお帰りのキスをすることにしようか」
 つかんだ手をぐいっと引っ張ってエドワードを引き寄せた。
「わっ?!」
 急に引っ張られてバランスを崩したエドワードは、そのままロイの膝の上に乗り上げるような格好で倒れこんだ。腕の中に飛び込んできたエドワードの背中に両腕を回して抱きしめ、その額に軽く口づける。
「……っ」
 エドワードもしばらくまよってから、おずおずとロイの背中に両腕を回して抱きしめ返した。
「お帰り、エドワード」
「た、ただいま……ロイ」
 真っ赤になってそう返すエドワードの返事にロイは満足そうに目を細めて笑うと、今度は唇にキスを落とした。


end