図書館デート

 静かな図書館の閲覧室。
 エドワードと、珍しく私服姿のロイ以外ほとんど人もいないその図書館に二人がきてからすでに三時間がすぎようとしていた。


 時折、本を取りに立つ以外はずっと椅子に座ったままでエドワードは分厚い本のページをめくってはその内容を必死になって読んでいた。そのエドワードが座っている机のむかい側に腰を下ろしているロイは、書棚から適当に引き抜いてきた本を机の上に広げてはいるもののその漆黒の瞳はエドワードの横顔をじっと眺めたまま。先ほどから一ページも読み進んではいない。
 頬杖をついた姿勢でエドワードの横顔を眺めながらロイはこっそりとため息をついた。
「…………ふぅ」
 朝、家を出てくるときに見上げた空は青空だったが、今も天気はいいのだろうか? ふと、そんな事を思う。まあ、室内にいるぶんには天気など関係ないが……


 せっかくの休みだからと、エドワードをデートに誘いに来たまではよかったのだが『借りていた本を返しに行く』と言い出したエドワードについて図書館に来たのが運のつき。
 『来たついでだし』とエドワードはそのまま図書館で本を読み始めてしまったのだ。
 ロイも最初のうちは、エドワードの名を呼んでみたり、話しかけてみたりと思いつく限りのことをしたのだが、エドワードの集中力の前に見事に敗れた。
 エドワードに話しかけても無視され続けるあまり『自分は本よりも優先順位が下なのか?』とワケのわからないことを考えてむなしくなったり……
 そんな状態が三時間ほど続き。いい加減ロイの我慢が限界に達しようかというまさにその時。
 ぐう〜。
 タイミングよくエドワードのお腹がなった。
 時計を見れば時間はもう昼。ロイはチャンスとばかりにエドワードに話しかけた。
「エドワード。そろそろお腹がすかないかい? この辺で切り上げてお昼にしないか?」
 そのロイの言葉に、エドワードが三時間ぶりにリアクションを返してきた。本の紙面から顔を上げてロイの顔を見る。
「そーだな」
 エドワードの返事にロイは、よしっ! と心の中で拳を握り締めて小さくガッツポーズ。そしてさりげなくデートの話を切り出す。
「それでだね……食事ついでにその後、私とデートをしようか。天気もいいしたまには外で二人っきりというのもいいものだよ」
 ロイの誘いにちょっと小首をかしげて考え込んでいたエドワードだったが、わりとあっさりとうなずいた。
「いいぜ」
「本当か?!」
 エドワードの返事にロイは座っていたイスから思わず腰を浮かせた。机を挟むようにして座っているエドワードにぐっと詰め寄る。
「ただし! メシ食った後。図書館で二人っきりで閉館時間まで読書っていうデートコースならな」
 そう言ってエドワードはニヤリと意地悪く笑って見せた。
「……それはデートとは言わないだろう」
 エドワードが出した提案にがっかりして、ロイは情けなさそうに浮かせていた腰を再びイスに戻した。
「イヤならいいんだぜ。べつに」
 そっけなく言いながら、エドワードは食事に出るために読んでいた本を片づけ始めた。
「……わかりました」
 ロイはだくだくと涙を流しながら立ち上がると、エドワードを手伝って机の上の本を片づけだした。


「さっきから何にやにやしてんだよ、大佐」
 一人上機嫌なロイを見上げてエドワードはむぅ〜、とむくれた。
 図書館を出てから、店に入って食事をしている間もロイはずっと上機嫌でにこにことエドワードの顔を見つめてくるのだ。
 むくれたエドワードの視線に気がついたロイが苦笑する。
「いや。君と二人っきりで外で食事をするのもずいぶん久しぶりだなあ、と思ってね。それに、さっき散々ほったらかしにされたからね」
 と、意地悪っぽく片目をつぶって見せる。それを見たエドワードは途端にバツの悪そうな顔になった。ぷいっとそっぽをむくとさっさと一人で歩き出した。
「ほら、さっさと行こうぜ大佐。図書館に戻る約束だろ?」
「少しぐらいいいじゃないか、ちょっと寄り道をしていこう。せっかくここまで来たんだし」
 後ろから早足で追いついてきたロイがエドワードの顔を覗きこむようにして見つめてきた。
「うっ……」
 さっきロイを散々ほったらかしにしたこともあって、ちょっと後ろめたい。
 どうしようかとエドワードが悩んでいると後ろから別の声がかかった。
「あっ、いたいた。兄さーん!」
 聞き覚えのある声に振り返れば、通りの角から出て来た大きな全身鎧がこっちに向かって大きく手を振っているのが見えた。
「アル? どうしたんだ」
 こっちに向かって駆け寄ってきた全身鎧。エドワードの弟のアルフォンスは、エドワードと一緒にロイがいることに気がついて挨拶をしてくる。
「こんにちは。大佐も一緒だったんですね」
「こんにちは。アルフォンス君」
 せっかくデートらしくなってきたところを邪魔されたくはないなぁ、と心の中で大人気ないことを思ったりしながらも微妙な笑顔で挨拶を返すロイ。
 そんなロイの気持ちにまったく気付かず、エドワードは何やら自分を探していたらしい弟に向かって訳をたずねた。
「買い物に行くって言ってたのになんかあったのか? アル」
「そうそう。ちょっと寄った古本屋さんでね、いい本見つけたんだ。ほかにも色々ありそうだったから兄さんを呼びに……」
「なにっ!」
 まだ話の途中なのにエドワードはがっ、とアルフォンスの腕を掴むとそのまますごい勢いで詰め寄った。
「どこの古本屋だ? 今行くぞ! すぐ行くぞ!」
 そのまま走り出しそうな勢いにアルフォンスは苦笑しながら兄を宥めた。
「兄さん。そんなに慌てなくても」
 そして、当然のごとくその話の流れにロイも慌てた。
「鋼の、私との約束は?!」
「そんなの変更だ、変更! 図書館の本はなくならないけど、古本屋だとそうも言ってられないからな!」
 あいている方の手でロイの腕を引っ掴むと、エドワードはアルフォンスを促して駆け出す。
「何ちんたら歩いてんだよ大佐。ちゃっちゃと自分で走れよ! ほらアル行くぞ!」
 急に走り出したエドワードに半ば引きずられるようにしてロイも走り出した。


 エドワードと二人っきりで図書館でデート(?)のはずが、ひょんなことからエドワードとアルフォンスと三人で古本屋めぐりになってしまったが、これはこれで楽しいデート(おまけ付)になるかもしれない、とロイは心の中でそう思いなおすとエドワードの走る速さに合わせて足を速めた。


end