ぽつり。
雫がひとつぶ、空から落ちてきた。
「ん? 雨?」
そう思っている間に、次から次へと空から雫が降ってくる。
「本格的に降ってきそうだ。どうする? どこかで雨宿りでもするかい?」
となりを歩いていたロイがエドワードのほうを振り返る。しかしエドワードはふるふると首をふるときっぱり。
「ここまで来てたら東方司令部に行ったほうが早い!」
そういうなり、ロイを置いて走り出した。
「あ、鋼の!」
慌ててエドワードの後を追うロイ。
しかし雨は思った以上に早く降りだした。
本格的に降りだした雨の中、ふたりは東方司令部に向かって走る。やっとのことで目的地にたどり着いたころにはふたりともずぶ濡れになっていた。
「どこかで雨宿りされなかったんですか?」
ずぶ濡れのふたりをため息まじりに出迎えたのはホークアイ中尉。
「ちゃんと拭いてください。風邪を引ますから」
彼女は二人分の着替えとタオルを用意するとなにか温かい飲み物を、と執務室を出て行った。
ロイがホークアイから手渡されたタオルで髪についた雨の雫を拭いていると、隣で同じように身体を拭いていたエドワードがいたずらを思いついたような顔でロイを見上げてきた。
「鋼の?」
いぶかしげに見ているとエドワードがちょいちょい、と手招きをする。
「なんだ?」
ロイが少しかがんでやると、エドワードはロイが頭からかぶっていたタオルの両端をつかんでぐいっと真下に引っ張った。
「わっ?!」
突然のことに体勢を崩し床に膝をつく。そのロイの頭の上に乗っているタオルを取り上げるとエドワードはにやりと笑った。
「オレが頭拭いてやるよ大佐♪」
そういってがしがしといささか乱暴にロイの黒髪をタオルで拭きはじめた。
「イタタッ……もう少し優しくしてくれないか鋼の」
「じゅうぶん優しくしてるって」
ロイのクレームもなんのその。エドワードは嬉しそうにロイの黒髪をぐしゃぐしゃにかきまわす。そんなエドワードの様子に苦笑するとロイは少しの間だけそのままじっとしていることにした。
しばらくして……
くしゅん!
エドワードの口から小さなくしゃみが飛び出した。
「鋼の。自分の頭も拭いたらどうだ?」
「へーきへーき」
軽く答え、またロイの髪をがしがしとやりはじめる。ロイは嘆息するとエドワードの首にかかっているタオルに手をのばした。タオルを取り上げて広げるとぱさっ、とエドワードの頭にかぶせた。
「わっ!」
急に視界が狭まって驚いているエドワードにかまわず、ロイは黙ってエドワードの頭を拭きはじめる。
「大佐がオレの頭拭かなくってもいいってば!」
「駄目だ。風邪を引く」
そう一蹴して、ロイはエドワードの蜂蜜色の長い髪を丁寧に拭きはじめた。
二人の着替えが終わるころあいを見て、ホークアイが暖かい紅茶を持ってきてくれた。
「はい、どうぞ」
「すまない」
「ありがとう」
ソファに座ってロイと一緒に紅茶を飲んでいたエドワードがふと、窓の外に視線を向けた。突然、手に持っていたカップをテーブルの上に置いて立ち上がると手近な窓まで歩いていって大きく窓を開ける。
何事かとそのエドワードの行動を見ていたロイとホークアイの視線も気にせず、そのまま窓から身を乗りだすと手のひらを上にむけて窓の外に出した。
「あんなに降ってたのにもう止んでら」
窓の外に視線をやると、薄日がさす空のむこうに虹がかかっているのが見えた。
「どうやら通り雨だったようですね」
と、ホークアイ。
エドワードは少しむくれて、
「雨宿りして少し待ってればよかったのか……なんだよ、濡れ損じゃん」
ぷうっと頬を膨らませるエドワードを見ながら、ロイはぽつりと呟いた。
「……私は、けっこう楽しかったがね」
「えっ?」
ロイの呟きがよく聞き取れなかったエドワードが不思議そうにロイを見返した。しかしロイは優しげな笑みを浮かべただけでなにも答えてくれなかった。
「? ま、いっか」
そういってエドワードもつられたように笑う。
ふいに窓から吹き込んだ強い風がエドワードの前髪を揺らす。その風にエドワードは気持ちよさそうに目を細めた。
雨はすっかり上がっていた。
end