事の発端は、ロイが何気なく言い出したその一言だった。
「……そういえば、鋼の」
机に向かって仕事をしていたロイはペンを持つ手をぴたりと止めると、執務室のソファに腰掛けて分厚い本を読んでいるエドワードにむかって唐突に声をかけてきた。
(さっきまで大人しく仕事していたと思ってたのに……)
エドワードはややうんざりした顔で気のない返事を返した。
「ん〜なに?」
ただし、目はしっかりと活字をおったままだったが……
エドワードの気のない返事に気がつかないのか、気にしてないのか。ロイはそのまま言葉を続けてきた。
「今。ふと思ったんだがね……」
「うん?」
なにやら妙にもったいぶったその口調が少し気になったのか、エドワードがようやく紙面から顔を上げた。そのエドワードの目を机の上にのった書類の山越しにひたと見つめてロイが一言。
「好きだよ。エドワード」
「なっ!?」
唐突にロイから告げられた愛の告白に、エドワードは驚いて手に持っていた分厚い本を思わず取り落とした。
ゴン!
「っ〜!」
取り落とした本の角がエドワードの右足を直撃。
本をぶつけたところがジンジンと痛むがなんとかその痛みをこらえて、ロイにたずね返す。
「大佐……何なんだいきなり?」
「いや、その。君と恋人同士になってからだいぶんたつが、君の口から『好き』という言葉を言ってもらったことがないなぁ……と」
ロイの言葉にエドワードはかぁぁっ、と顔を赤らめた。
「なっ、なに言い出すんだよアンタは! そんなことわかってんだろ!」
手をわたわたと振り回し言い返してきたエドワードを見て、ロイは顎に手を当ててうんうんとうなずきつつ、
「まあ、君はいつも態度で気持ちを伝えてくれてはいるがね」
そこまで言ってから、ロイはおもむろに椅子から立ち上がるとエドワードが座るソファの前まで歩いてきた。
「しかし、一度ぐらい鋼のの口からそのセリフを聞きたいなぁ、と思ってね」
そのままエドワードの顔を覗きこむようにしてにっこりと笑いかけてくる。そのロイの視線を避けるようにエドワードはぷいっとそっぽをむいた。
「…………」
黙ったままでロイの出かたをうかがうが、ロイはそれ以上何も言ってこない。しかたなくそっぽをむいたままちらっとロイのほうを盗み見ると、ロイはにこにことした顔でエドワードの言葉を待っていた。
「…………」
しばし、沈黙。
「………………」
やっと覚悟を決めたのか、エドワードは耳まで真っ赤になりながらおずおずと口を開いた。そして、蚊の鳴くような声でぽつりと一言。
「………………き」
「え? よく聞こえないなぁ」
にやにや笑いながら意地悪く聞き返してくるロイの態度にむっとしたエドワードは、さっと片手を伸ばしてロイの片方の耳を引っ張ると、顔を近づけてその耳元で声を張り上げた。
「ロイが好きだって言ったんだよ!!」
キーン。と耳鳴りがするほどの大声で叫ばれ、あまりの声の大きさにロイは耳を片手で押さえて少し顔をしかめていたが、すぐに嬉しそうな顔になるとすっと屈みこんでエドワードの耳元に唇を寄せて囁くように言った。
「私も、愛しているよエドワード」
そして、とろけるような笑みを浮かべてエドワードの頬に口付ける。
「……ハズかしいやつ」
エドワードは耳まで真っ赤なって、ぷいっとロイから目を逸らした。
end